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第7章「かいほう」 6-7 地下封印神殿

 帝都リューゼンの宮城である、リューゼン城の真下。

 我々で云う、地下2000mに、特別な地下封印神殿がある。

 いま、コンポザルーンが、神殿を1人で訪れていた。

 魔術的機構により、転送で行ける。

 逆に、転送魔法以外では、行くことはできない。階段もエレベーターも無い。


 神殿と云っても、壮麗な建築物があるわけではない。

 漆黒で広大な地下空間に、ぽつん・・・と朱色の鳥居があるだけだ。

 それも、実物というより、記号のようだった。


 照明があるわけではないが、地下空間は鳥居も含めて、視認が可能だった。


 また逆に、空間全体はどうしても把握できない。


 まるで、可視光線下での実体では無く、脳内にメタ空間が投影されているかのようだった。


 皇帝は神官のように巨大な鳥居の中央を通り、まっすぐ闇の中を歩いた。


 するといつの間にか、見上げるような巨体にも見え、背が高く恰幅の良い皇帝の胸まで程の小柄な女性にも見える、不思議な感覚を見る者に与える真っ黒い結晶物体が現れた。


 恐ろしいほどにブリリアントカットが施されている黒金剛石ブラック・ダイヤモンドのようにも見え、非常に艶やかですべらかな黒真珠ブラック・パールのようにも見え……単なる石炭や黒曜石にも見える半透明の結晶の中に、頭上に漆黒のシンバルベリルを3つ、トライアングルに並べた、三面六臂の姿に変化したような・・・女性が見える。顔は全て静謐に目を閉じ、眠っているようにも、死んでいるようにも見える。腕は、一対が手で胸を押さえるように前で組み、一対はダラリと下げ、一対は自らの肩を触るように曲げている。


 その姿は、角度や時間によって、三面六臂から普通の姿、さらにはそれらが合わさり、重なった姿へ刻々と変わるうえ、そもそも見えたり見えなかったりもする。


 三重合魔魂テルミルという離れ業をしてのけ、永遠に世界を侵食する超高重魔力を押さえ、世界のバランスを整える役を担った、タケマ=ミヅカの成れの果て・・・・・だ。


 3つの漆黒のシンバルベリルにちなみ、3つの神名を持つが、帝都リューゼンにあっては常にメシャルナー神がえているため、表神おもてがみとして大魔神メシャルナーが奉じられている。


 「聖下……!」


 皇帝が、多重次元に食いこみつつ、次元的には当該世界が、物理的にはこの世界をある惑星を含む太陽系が銀河的な規模の天文学的な魔力の流れに吸いこまれてゆくのを押さえている大魔神メシャルナーぬかづいた。


 「聖下が御役を譲らんとしている新たなる魔王……異次元魔王……既に2人の魔王を倒し……大海を渡らんとしておりまする……。このままでは、ロンボーン様も、いずれ……」


 メシャルナーは、何も応えなかった。


 ゴルダーイとストラの戦闘に介入し、次元の亀裂を修復するのに力を使ったためである。


 それほど、力のほぼ全てを、世界の安定と固定に使用している。

 それ・・が、もう限界だというのである。


 「しかし聖下……この帝国は、聖下を御護りするためだけ・・に創設され……そのためだけ・・・・・・に、存在致しまする……聖下が、役を御譲りになられるのであれば……帝国も、その役を閉じることになりましょう……」


 皇帝がおもてをあげ、狂気的な眼で結晶を凝視みつめた。


 「私めは……しかし……むざむざと、帝国を終わらせるつもりは御座りませぬ……帝国が終わる時……聖下が役と任を終える時……それは、世界が終わる時で御座りまする……!! あのような、異次元から到来した馬の骨などに……!!」


 それは、自殺願望なのだろうか。破滅願望なのだろうか。それとも、タケマ=ミヅカの最側近の末裔の狂気なのだろうか。


 神たる黒い結晶は、無言で佇んでいる。

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