第7章「かいほう」 6-6 コンポザルーン5世
「ハハアッ!!」
王とシラール以外の全員が直立不動で席を立ち、深々と拝礼した。
ほぼ、同時刻。
バーレン=リューズ神聖帝国帝都リューゼン。
人口は77,000人ほどで、世界の1/3を支配する大帝国の首都にしては、以外にこじんまりとしている。
それは、この帝国が強権的独裁的な皇帝親政ではなく、実体は700余州にも及ぶゆるやかな連邦国家であり、皇帝や帝都はその統合の象徴にすぎないからだ。
なにせ、皇帝は世襲ではなく、皇帝を輩出する権利のある6王家の中から適当に……と、云えば語弊があるが……互いによく分からぬ基準で選出された候補者を、さらに6王家とは別の12の選帝侯家が投票で選出するのである。
この900年間、一度も皇帝を輩出していない内王国すらあった。
ウルゲリアは、ついぞ皇帝を出さぬまま滅亡した。
帝国中……ほとんど世界中からありとあらゆる人種が集まり、帝都やその周辺に住み着き、子孫を残しているので、皇帝がどこの出身かに関わらず、「帝都人」とでもいうべき人種を形成している。文化も都会的で、人々の感性や思考はドライだ。
現在の皇帝は、約30年前に6王家が1つ、チィコーザ王国から選出されたコンポザルーン5世、67歳である。チィコーザの第2王子で、王家は兄が継いだ。なぜ兄を差し置いて皇帝に選ばれたかというと、国王のほうが実入りもいいし、やりがいもあるからである。皇帝はあくまで象徴であり、ささやかな直轄領の統治すら皇帝府の役人が行い、何もすることがない。はっきり云って、閑職だった。たまに帝都を訪れる諸外国の代表や帝国内の諸領主を歓待し、適当に官位を与えるくらいだ。いちおう各国領主の人事権は持っているが、皇帝に従わない領主などいくらでもいる。
では、なぜ帝国が分裂せず、そんな名目上の皇帝制度がいつまでも残っているのか。
帝都の地下深くに鎮座する、「神」の存在を抜きに語れない。
およそ1000年以上前……。
既に各国各地域の伝承や神話にも差異が生じ、各人の記録や公文書等も破棄・逸失・亡失・封印されて久しく、もう詳細はよく分からない。
当時の「世界」は、偏在する魔力の濃度が現在よりずっと濃く、もっと多数の魔族や魔物が跋扈していたという。
世界に何人かいた魔王も非常に強力で、エルフ類、トロール類ら亜人も含めた人類は殺伐として、絶えることのない各国間の戦争や魔物退治に忙殺される超絶戦国時代であった。
その時代を終焉させたのは、まるでこの世界の住人ではないような、圧倒的な力を持った小柄な女魔法戦士と、最終的にその6人の仲間の、7人の冒険者だった。
まさに、我々で云う神セブンとでも云うほどの、超絶的圧倒的な強さであった。
女魔法戦士がタケマ=ミヅカであるのは、云うまでも無いだろう。
が、残る6人の仲間が、そのまま6内王家の始祖になったのか……というと、必ずしもそうではなかった。
正確には、3人が王国を興し、その内の2国が現在も続いている。残りの3人は、新たな魔王になったという。
その魔王になった1人が、バレゲル森林エルフの巫女であり、凄まじいまでの神聖魔力を有した「天の眼」こと、ゴルダーイであった。ゴルダーイの超絶的な神聖魔力は、中級の魔族・魔物であれば、片手で滅したほどだった。
また、3藩王家を除く11王家と伯爵以上の独立した大身領主は、1000年の間に分家と政略結婚を繰り返し、遠いにしろ近いにしろ現在では「ほとんどが親戚」であった。
中でもチィコーザ王国は、いまもってタケマ=ミヅカの最側近と謳われた戦士の子孫が営々と現在まで血脈を保持している、帝国を構成する700余州でも筆頭の家柄だった。それは、この1000年間に皇帝を22人も輩出していることを見ても分かった。6内王家でも、ダントツで1位の数字だ。




