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第7章「かいほう」 6-2 避難経路

 「ここ・・と外じゃ、時間の流れが異なるからね……! 今の振動の様子では、トンネルはこの先、つぶれて行き止まりだよ! ここもつぶれる前に、いったん外に出るんだ!」


 「こんなとこで外に出て、大丈夫なんでやんすか?」

 「え……」

 何気ないプランタンタンの質問に、ルートヴァンがギクリとして息を飲む。


 実際このタイミングでトンネルの外に出ていたら、15分後ころには、超絶的高濃度魔力の洪水の直撃を受けていただろう。ルートヴァンですら、どうしようもないほどの。


 (待て……待て待て、考えろ、ルートヴァン! 聖下の攻撃の影響がどこまで広がるか……予測するんだ……)


 瞬時に出した答えは、ウルゲリア全土への波及だった。

 そしてそれは、正しかった。

 ルートヴァンは即座に魔力を操作し、次元を歪曲させた。

 「な、なんだなんだ!?」


 いきなりトンネル全体がゆがんでひん曲がり、フューヴァが驚いたが、もっと驚いたのはプランタンタンだ。竜たちへ急ブレーキをかけたが、


 「プランちゃん! そっちだ、そっちへ向かって!」

 「ど、どっちでやんす!?」

 ルートヴァンも席から身を乗り出し、プランタンタンへ指示をする。


 「そっちの分かれ道へ進んで! 僕が、トンネルを分岐させた! 避難経路だよ!!」


 「了解でやんす!!」


 巨大な狼竜ベゲット達が急カーブを描き、加重と反動で後ろの馬車がひっくり返らんばかりに傾いたが、ルートヴァンが重力制御の魔法で耐える。


 だが、一口にトンネル内に避難用の分岐通路を作製する……と云っても、この次元トンネルはバレゲルエルフ達が魔術で創り出したものだ。同じ魔術でも、魔力を操る方式や原理が異なる。この世界では、未だ世界統一魔術というものが無く、魔術は各国や個別の魔法学校、または種族、部族、個人の方式というか流派による。


 ルートヴァンはヴィヒヴァルン式あるいはヴァルンテーゼ魔術院流のアカデミックな魔術を極めているが、バレゲルエルフ達の土俗的な部族魔術とは根本から術式が異なり、云うほど簡単ではない。


 そこをこの土壇場で、一発で「合わせられる」のが、ルートヴァンの凄いところだ。ある種の天才と云ってもいい。


 しかし、その天才でも、分からないことはある。

 まして、実戦現場のこんな突発的な対処では。

 分岐したトンネル自体が、とんでもない振動に襲われだした。

 術式の無理で急激な接続による、魔力振動だ。


 「ななな、なんだなんだ、じじじ地震かよ!?」

 フューヴァが、席の背にしがみついて叫んだ。

 プランタンタンも懸命に狼竜ベゲット達をなだめつつ、


 「ル、ル-テルの旦那ァアあ、なん、なんとか……なんとかしてくだせええ!」

 舌をかみそうになりつつ、訴えた。


 ルーテルは必死に心中で呪文・術式を変更し現状に合わせながらも、エルフ達がどうやってこの次元トンネルを維持しているのかが分からず、対処のしようが無かった。今は、云わば手探りの行き当たりばったりでひたすら魔力を調整しているにすぎない。


 (クソおッ!! クソクソクソクソクソッッ!! こ、こんなことなら、エルフ達に呪文を習って……いや、せめて術式構造を教えてもらうんだった!!!! 僕は、どこまで高慢ちきのアホなのか!!!!)


 一行は、バレゲルエルフの里へ向かう時に、既に同じ次元トンネルを通っている。


 その時に、好奇心や興味と謙虚さがあれば、未知の呪文について質問してしかるべきなのだ。


 それを、

 「フン、ド田舎エルフのド田舎魔術にしちゃ、まあまあ・・・・じゃないか……」

 などと思って、内心、鼻でわらっていたツケというわけだ。


 (つなぐ・・・のは一発だったんだ、その維持だって……! こんな振動、おこるはずが……!)


 理論では通じるが、現場では通じないことなど、いくらでもある。

 「ええい! こなくそ!」


 ついにルートヴァン、自分が咄嗟に作った次元トンネルを、エルフ達のトンネルと切り離した・・・・・


 それ・・しか、方法が分からなかった。思いつかなかった。

 振動が、ピタリと止んだ。

 プランタンタンが、竜達を止める。

 「…………」

 必然、車も止まった。


 「……ゆ……揺れが止まったのか……よ……?」

 席の下にうずくまっていたフューヴァが、おそるおそる顔を出す。

 「行き先が、無くなった・・・・・でやんす」

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