第7章「かいほう」 6-1 高濃度魔力汚染~トンネル
「なに、御聖女とて、もう限界だった。遅かれ早かれ……よ」
「…………」
「全ての魔王を打ち倒し、身共の元へ、到達せよ……」
「魔王を倒せば倒すほど、この世界は壊れて行くと推察します。それでいいの?」
「どうせ、壊れ行く運命にある世界だ」
「だからって……」
「身共や其方の意思など、巨大すぎる宇宙の流れの中では、抗いようのない些末だ。なるようになると心得よ」
「なるようになる」
タケマ=ミヅカが、次元の向こうに消えてしまった。
「…………」
ストラはややしばし、その次元の揺らめきが納まるまで凝視していたが、
「……何を、悟ったようなことを……!」
珍しく、不愉快に顔をゆがめた。
人間だった時の感情が、揺さぶられたのか。
王都だった場所に戻り、低く垂れこめる疑似核融合爆発の雲から降る雨が、しとしとと地面を濡らす中に、静かに降り立った。
恐るべき「超高濃度魔力の洪水」に曝されて、大地は見渡す限りが赤や黒やそれらの入り混じった濃淡の色に染まっていた。天然のシンバルベリル結晶が生成され、水晶のようにキラキラと雨粒の光を反射していた。試しにストラがエネルギー回収フィールドを展開してみると、フィールド内の魔力が吸収され、地面の色が戻った。
しかし、回収できる量もまばらで質も悪く、安定せず非効率だった。フィールド展開をやめると、すぐさま汚染が再開された。
(やっても、無駄)
浄化を諦めたストラは、次元トンネルの出口を探した。完全に空間ごと吹き飛んでおり、ストラは探査しながら再接続を試みた。
トンネルは、すぐに見つかった。
6
ストラは数秒で王都に到達したが、狼竜に引かせた車をどれだけ速く走らせたとして、プランタンタン達が王都に到達するのに5~6時間はかかる。それでも、20日はかかる道のりを数時間で行くのだから、徒歩から新幹線になった感覚なのだが。
最初は興奮していたフューヴァとペートリューも、出発から1時間半を超えるころには飽きて、黙りこんでしまった。風が身に染みて目が乾くし、周囲の風景も代わり映えしない。やがてペートリューは酒を飲んで寝てしまった。
(やれやれ……)
後席を確認しつつ、ルートヴァンが嘆息する。
(だが、こんな調子じゃ、聖下が聖魔王を倒すのに間に合わないのは確実……けっきょく、フューちゃんの云う通り、僕なんかがどう粋がったって、フューちゃん達と変わりはないのだ……)
自嘲に苦笑し、ルートヴァンは目を細めた。
だが……。
恐るべき次元のゆがみが振動波としてトンネルを襲い、魔力の乱れとしてルートヴァンが察知した。
「とっ!! 止まって!! プランちゃん、止まるんだ!!」
元より、トンネル内と外界では時間の流れが異なる。
ストラがゴルダーイと戦闘していた時間は、30分あるかないかなので、1時間半も走っている彼らの感覚に合わせると、とっくに終了している。
だが、トンネルの外では、いま、ストラの5Mtクラス疑似核融合が炸裂したのだ。
「プランちゃん!!!!」
プランタンタンは声が届かないのか、手綱を緩めることは無かった。
「止まって!! 止まれ!!!!」
「なんだよルーテルさん、小便か?」
云われてみれば自分もトイレに行きたいかも……等と思ったフューヴァ、身を起こすと御者台のプランタンタンに掴みかかり、
「おいプランタンタン! 止まれ! 便所休憩だとよ!!」
「はあ!? こんなところででやんすか!?」
驚いたプランタンタンがそれでも振り返って綱を緩め、狼竜達が息を弾ませて徐々に走るスピードを落とす。
「そうじゃない、そうじゃないよ! いったん、脱出だ!」
慌てて、ルートヴァンが叫ぶ。
「どういうことだ?」
フューヴァが、眉をひそめた。
「聖下と御聖女の、恐るべき戦闘が始まったんだ!」
「ええッ!? いまさらかよ!?」




