第7章「かいほう」 5-8 どうして
そして、魔力子はストラのエネルギー回収フィールドでエネルギー補充できる。現象を観測しつつ、エネルギー補充も忘れない。
「回収開始」
次元断層からかなり距離をとって出現し、次元転換法と重力レンズを展開し、吹き出る魔力子そのものや、魔力子が発生させる膨大な振動効果を、ひたすらエネルギー源として回収した。
ストラの総エホルギー量が、見る間に回復して行く。
「…………」
が、フィーデ山の遥か地下の巨大マグマ溜まりのエネルギーのほぼ全量を瞬時に転換した時とは、勝手が違った。
マグマ溜まりを巨大な湖とすると、いまの現象はその湖からポンプでくみ上げてジャージャー流している水をひたすらゴクゴク飲んでいるようなものだ。
この魔力子の奔流がどれだけ続くのか分からないが、何時間、何十時間もかけている場合ではない。
それでも、短時間でエネルギー総量はひと桁半ほど回復した。全体エネルギー量は、TNT換算で概算500Gtを超えた。毎日宇宙線をチマチマ集める手法の数万年……いや、数十万年分を数分で手に入れた。
と……。
周辺空間全体が内側より圧され、次々に大小の亀裂が発生。水漏れのように、高濃度魔力が噴出しはじめた。しかも、瞬く間にその亀裂が増えて行く。ザッとストラが探知すると、半径数十キロ内に、観測時点で2796か所もあった。まさに、魔力の海の底が抜けかけているかのようだ。
ストラは、それ以上の回収を諦め、少しでも超絶高濃度魔力の「漏れ」を止めるために、次元断層の修復を試みた。
が、そもそも攻性兵器であるストラにとって、次元修復系のプログラムはあくまで攻撃の補助や防御機構としてしか組まれていない。大がかりな「次元工事」系プログラムは、次元航路開拓・修復ユニットのような専門の機器にしか搭載されない。
それでも、一応、ストラがいま得たばかりのエネルギーを活用し、空間制御プログラムをフル稼動させる。
だが即座に、
(論外。修復不可能)
水道管の主管に亀裂が入り、数十メートルもの水飛沫がアチコチに上がっているのに、スコップで土をかけているに等しい。
「そこは、身共にまかせてもらおう」
(この声……)
ストラは、初めてタケマ=ミヅカの本体を垣間見た。
次元を歪ませてじわりと顕れたその姿は、まさに人間にしてみたら神そのものだろう。
しかしその姿とて、本体そのものではない。本体は、バーレン=リューズ神聖帝国帝都リューゼンの宮城地下深くに「鎮座」している。
大魔神、大暗黒神、大明神の3柱の神名を持つというその姿の通り、3つの漆黒のシンバルベリルと合魔魂を果たしたタケマ=ミヅカは、巨大な黒真珠とも黒金剛石とも、見方によっては単に石炭や黒曜石にすら見えるほど暗黒のシンバルベリルが3つトライアングルを描いたものを頭上に掲げた、見る角度や魔力の濃度によって姿を変える、六腕三頭三身の聖女のようなイメージを見るものに与えていた。
(まさに、暗黒の女神……聖なる暗黒……大黒に満ちた、宇宙の真理の体現か……)
ストラは即座にタケマ=ミヅカを探査したが、無駄だった。ありとあらゆる探査波が返ってこない。
(正体は、特殊ブラックホール……?)
ストラの存在していた世界での物理現象として認識できず、
「探査不能。解析不能。推測不確定。未知原理未知法則により膨大な魔力子を制御、次元干渉を行っている」
そう記録するのが、精一杯だった。
タケマ=ミヅカが、広大な範囲に無数にあるような次元断層を、その膨大な魔力を使い、少しずつ塞いで行った。
それでも、最後にストラの近くにある巨大な断層を防ぐまでに、20分はかかった。
超絶高濃度魔力の噴出は、ひとまず納まった。
しかし、完全には塞がっておらず、染みのように流れ出てきて、ウルゲリアの大地を汚染し続ける。
ストラは、その全てを観測していた。が、ボソリと、
「どうして」
こうなることが分かっていて、ストラとゴルダーイを戦わせたのか。
誰でも持つ疑問だろう。




