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第7章「かいほう」 5-7 事象の器の瓦解

 そうなれば、物理攻撃が通用する。

 そして殴り合いでも、ゴルダーイに勝ち目は無い。

 ストラの両拳に、再び超高熱核反応。


 何の容赦もない5Mtパンチが炸裂し、ゴルダーイが三度、超高熱原子分解された。


 「チクショウ!! このバケモノめ!! マジでどうなっても知らないぞ!!」


 またも、ゴルダーイの意識だけの声がする。ストラは連続した左5Mtパンチの出力を2Mtまで落としつつ、先ほど使用した次元干渉系の対ハック用プログラムの一部を自動で走らせて、それを左の攻撃にうまく乗せた・・・。物理攻撃と次元干渉と二種類の超絶攻性プログラムの同時制御は、現状ではできないが、制御を離れて自立しているプログラムをうまく誘導することはできる。


 「……!!」

 空間が歪み、さらに陥没した。

 次元の隙間に潜んでいたゴルダーイが、現れる。

 ストラの左パンチを、大きな一つの天の眼が防いでいた。


 その天の眼を、まさに猛悪な殺人ウイルスのように、ストラの攻性プログラムが即座に次元浸食した。


 先程と逆だ。


 同時に、2Mt級の高熱と爆破エネルギーが超重力レンズで一点に集中し、爆縮効果で突破を試みる。


 空間が軋み、天の眼に亀裂が走った。

 とたん、天の眼が上下に開き、大口が出現。

 2Mtパンチのエネルギーごと、ストラを呑みこみにかかった。

 その口中へ、ストラが右手の5Mtをぶちこんだ!!

 「…………!!!!」

 それが、決め手となった。


 ホワイトアウトの中、悲鳴とも次元の軋みとも空間破砕音とも事象崩壊音ともとれぬ異様な絶叫が轟き、天の眼がズダズダに砕けて、次元断層が連続的に発生した。ストラがこの世界に飛ばされ、落ちてきた際の次元断層とは比較にならないほど浅かったが、それでも次元断層だ。断層の先がどこにつながっているのかまったく分からないし、そのまま次元の隙間に挟まって永遠に居続けることにもなりかねぬ。


 ストラは、自動オートで全残存エネルギーを空間移動に使い、断層から緊急脱出した。


 ほぼ同時に、断層の隙間から間欠泉か血飛沫でも出るように、凄まじい勢いと量で「何か」が吹き出てきた。


 「……恐るべき量と濃度の、魔力子マギコリノの噴出を確認……」


 近い次元の裏からその現象を観測したストラは、噴出する魔力の量を計測しようとして、やめた。とても計りきれる量ではなかったからだ。


 というより、魔力子マギコリノの計測単位すら定めていない。


 「仮に太陽フレア規模で推測計測すると、この噴出だけで推定X5クラス。これから、どこまで広がるかまったく不明。X100を超える可能性もある」


 X100に匹敵ということは、ストラの総エネルギー量満タンに匹敵するということで、TNT換算100億Mtだ。すなわち、10Pt……1京トンに匹敵する。一気に炸裂すれば、ウルゲリア全土を、地上から地殻ごと消し去ることができるだろう。


 その一部が、間欠泉めいて次元の亀裂から吹き出ているのだ。

 しかし、一体全体、どういうわけで!?


 「推測。この世界……惑星系が曝されているという天体規模の魔力子マギコリノの宇宙大河からの支流的奔流の極々一部を、あの聖魔王が未知法則の手法により防いでいた可能性が大。『事象の器』とは、封印を意味していたと推察。それが失われたことにより、奔流からの流れが、現実世界に影響を及ぼしている可能性が高い」


 つまり、ストラがゴルダーイを排除したために、こうなった・・・・・ということだ。


 そのゴルダーイは、三次元内にも多次元にも、少なくともストラの観測範囲内では、肉体も精神も跡形すらない。


 もっとも……ストラのように、時空の狭間の完全なる異世界のどこかに流れ着いたかもしれない。


 それはそうと、凄まじい勢いで次元断層から吹き出る大量の超絶高濃度魔力が、王都を中心にウルゲリアじゅうに広がりはじめた。


 「浸食……いや、汚染速度が異常」


 どういう現象なのかまったく不明だったが、液体や気体といった物理的な浸透速度を超え、まさに宇宙規模の大量の素粒子が凄まじい速度で物体を通過し、対流している。いくらこの世界の住人が魔力を利用する文明とはいえ、


 「当該世界の自然界に存在する魔力子マギコリノの、30億倍の濃度。間違いなく、当該世界の魔術師でも耐えられない濃度と推察します」


 すなわち、この超高濃度魔力に曝露ばくろした人間、家畜、植物を問わず、土壌の微生物に至るまで、ウルゲリアの全生物が瞬時に滅亡した。


 「超高濃度大規模中性子汚染に酷似……」

 空中で浮いたまま、浅い次元深度の裏側より、ストラが克明に観測した。

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