第7章「かいほう」 5-6 5メガトンパンチ
(まさか、位相空間転送で脱出、あるいは退避した……? あの瞬間で? テトラパウケナティス構造体兵器でも難易度は高い……それを、生身の反応速度で?)
ストラが、凹みへ意識とありとあらゆる探査波を集中する。
やがて、その姿が光学観測できた。
天の眼が集中し、赤黒い球体のようになっている。
それが空間を押しのけて凹んでおり、まるでフカフカのベッドに鉄球を置いたようだ。
「……」
ストラの表情が、厳しさを増した。
「ならば……」
こちらも、直接攻撃だ。
光子剣を納刀するや、両拳に熱核反応が出現。純粋な熱と爆破エネルギーが凝縮してプラズマ状となり、白色に光り輝いた。
ストラの総エネルギー量で発生させる天体規模の超絶磁場は、5Mt程度の疑似核融合すら余裕で押さえこむ。剥き出しの疑似核融合炉が、両手に出現したようなものだ。
その高熱と爆破エネルギーを、拡散ではなく凝縮して、直接叩きこもうというのだ!!
ストラが空間超電磁推進で瞬時に音速となって距離約130メートルを詰め、空間の凹みに固定されている天の眼を凝縮した球体に殴りかかった。
云うなれば、5Mtパンチだ。
一点に集中された5Mt相当の破壊力が、天の眼の外殻を砕いた。
空間浸食効果ごと吹き飛ばし、中身が露わになる。
膨大な魔力を集中して、復元中のゴルダーイが現れる。
(やっぱり、蒸発していた……そこから原子レベルで復旧できるとは……)
せめて準戦闘モードであれば、攻撃しながら位相空間制御プログラムにより相手の空間浸食を中和できるのだが、いまは高エネルギー攻撃か空間制御か、どちらかに集中しなくてはならない。
(もう一発……!)
ストラが右ストレートから左フック気味に、連続で殴りかかる。
「これ以上、事象の器を壊すな」
ゴルダーイの意識の声が、ストラに届いた。
(意味不明)
ストラがかまわず、左で5Mtフックをお見舞いする。
瞬時に再び天の眼が集まって分厚い壁を造ったが、それを一撃で砕いて、ストラの攻撃がゴルダーイを撃ち据えた。
超高熱エネルギーに曝されたゴルダーイは、またも塵も残さず原子レベルで蒸発したが、強力な魔術的効果で意思は残っている。
「だから、事象の器が完全に崩壊する!!」
精神の声だけが響き、やはり意味不明ながらストラ、
(どうやって、意思と意識を保持している……? 空間記憶法の応用で、次元そのものに記憶させているのか……それとも……?)
であれば、直接攻撃から広域次元攻撃へ即座にシフト。
プログラムを切り替え、疑似核融合が両手から消滅した。
そして空間探査の出力をあげ、空間記憶領域のさらに深い位置まで探ろうとしたとたん、ゴルダーイの精神体が直接ストラに接触した。
ストラは、人間だったころの「身の毛のよだつ」感触を、久々に思い出した気がした。
物理的にそんなことが可能かどうかは別にして、テトラパウケナティス構造体というより、その構造体表面を光速で走るプログラムが直接浸食を受けたような感触だった。
構造体内エラーが出て、物理的排除のために、自動で次元干渉プログラムが再び物理攻撃プログラムに切り替わる。が、
「そうはさせないぞ」
ゴルダーイの意思が、疑似核融合を阻止した。
(そんな、バカな……!!)
これには、流石のストラも驚愕するほかはない。
超高出力テトラパウケナティス兵器のプログラムがハックされるなどと、理論上あり得ないからだ。
(どうや……)
どうやっても何も無い。ストラは原因追及予測より、現状打破回避を選ばざるを得なかった。
ほぼ全エネルギーを、浸食阻止と撃退に使う。
その間、物理攻撃的には無防備だが、この状況でゴルダーイ以外の攻撃者もないだろう。
「うわッ……!!」
ゴルダーイの意識が、硬直する。
いかに小数点以下のエネルギー総量とはいえ、現実としてはギガトン級だ。ゴルダーイの全魔力も消し飛ぶ勢いで、次元干渉用対ハッキング超絶攻性撃退プログラムが走った。
その攻撃に曝されて、物理的に蒸発したように、ゴルダーイの精神体もが一瞬で消失する。
その消失寸前にストラの憑依から脱出したゴルダーイは、当該空間で再び形象を復元した。




