第7章「かいほう」 5-5 めんどくさ
もっとも、ストラの有するエネルギーを総て奪っては、ゴルダーイのほうが飽和して焼け死んでしまう。いくら小数点コンマ6桁クラスにエネルギー総量が減っているとはいえ、ストラを構成するエネルギーはそれほどだ。なにせ、フィーデ山の遥か地下で、国を幾つも滅ぼすほどのカルデラ破局噴火の総エネルギーを吸収しているのだから。シンバルベリルで比較すると、完全に黒色クラス数個分だ。
「……」
ストラはやおら右手の光子剣を振りかざし、自らの首元へ咬みついているゴルダーイの腰の辺りを斬りつけた。
その手首を、ゴルダーイが凝縮した魔力で強化した左手で掴み、強力に押さえた。
ストラは間髪入れず、ゴルダーイの前頭部へ左手を押し入れ、こめかみを鷲掴みにし、恐るべき力で頭蓋を砕きにかかった。
その左手首を、肩関節から異様な角度に曲がったゴルダーイの右手が同じように掴む。これも、ストラに匹敵するすさまじい力だった。
そして、両手の掴んだ部分からも構造体を分解しつつエネルギーを吸収し始める。
ストラは両手と首筋の三か所から、血と泉を吸いとられる格好となった。
いや、そもそもストラは外観上はヒト状生物であるが、正体は特殊なプログラムに封じこまれた、意思を持つエネルギーそのものだ。
血液や精気ではなく、エネルギーそのものを吸収するには、例えばストラで云うならば余剰エネルギー回収フィールドのような機構が必要なはずだった。
(それを、生身の生物がどうやって……?)
ストラの興味は、そこに集中した。
吸収したエネルギーを即座に魔力へ変換し、ゴルダーイの右目に埋めこまれているシンバルべリルが、真紅から臙脂色……それもどんどん濃くなり、黒色に変わってくる。
試しにストラ、ゼロ距離からゴルダーイの口中へ凝縮したプラズマ弾をぶち放った。
が、発生と同時に、周囲の天の眼が中和し、ゴルダーイの頭蓋を粉砕することは無かった。
さらに、ゴルダーイの両手とストラに咬みついている牙に、その天の眼が模様のようにへばりついていた。
すなわち、物理的に接触しつつ、間接的に次元浸食を行っていることになる。
(なるほど……一種の次元転換法で、エネルギーを取りこんでるんだ……)
だが、それを生身が行える原理は、やはり不明だった。魔力子が関与している……つまり、この世界の理屈で云うと、魔法技術ということになるのだろうが……。
天の眼と神聖魔力によるからめ手の間接攻撃を、さらにからめ手で直接攻撃に応用しているのだ。ただでさえ、原理不明の魔力子攻撃。対処のしようがない。
「めんどくさ」
ぶっきらぼうにそうつぶやくや、ストラ、5Mt級水爆に匹敵するエネルギー放射を行った。
原理不明の間接攻撃は、パワープレイで強引に粉砕する。
あまりに暴力的、かつ効果的な攻撃だと云えよう。
王都上空……いや、王都だった廃墟の上空のたった200メートルほどに直系2kmにも及ぶ超絶巨大火球が出現し、疑似核融合による莫大なエネルギー放射が地上を舐め、高熱が地殻を融解、衝撃波が大地を抉った。
もっとも、今現在のストラが全エネルギーを攻撃用に放出したとして、理論上推定TNT火薬換算10~20Gt程度の威力のはずなので、5Mtなどはほんの少しエネルギーを開放しただけだ。
また、旧ソ連の開発した「ツァーリ・ボンバー」が理論上100Mtの威力を誇り、実験は影響を考えてその半分の50Mtで行ったと云うが、それでも我々の世界では今もって史上最強の破壊力であり、それに比べると1/10程度の規模の可愛い物だ。
それでも、広島級原爆が15~20Ktであるというので、およそ333~250倍の威力である。
王都周辺、直系10キロの田園地帯や村落、宿場や衛星都市すらも高熱と衝撃波で跡形もなく吹き飛び、真っ赤に燃えた巨大なキノコ雲が成層圏まで立ち上る。
たとえ魔王でも、少女程度の質量の生身が耐えられる破壊力ではない。
灼熱に歪む大気の中、周囲に立ちこめる輻射熱を回収しながらストラがゴルダーイをサーチ。ゴルダーイと同程度の質量体はいっさい探査できなかったため、熱分解により蒸発したと認識したが、あからさまな爆発影響外の人為的な空間の凹みを探知。警戒する。そこだけ、時間の流れが遅くなるほどの空間歪曲効果が顕れていた。




