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第7章「かいほう」 5-3 天の眼

 さらに、鐘の音が重層的に響き渡る。

 その音の出す波動で、地上は瓦礫すら崩れて粉微塵になりだした。

 もちろん、死体を含めた人間ごと……である。


 (警戒……次元振動効果が、空間破砕レベルに達する見こみ……これは、次元攻撃か……)


 ストラ、自己防衛戦闘レベル3を発動……自己診断プログラム……許可。空間制御プログラムを起動。無数無限、微細に変動する波動を全て中和し、影響を最小限にする。


 「さすが……異次元・・・魔王というだけ……ある!!」

 ゴルダーイが動いた。

 空中に浮かぶ数十もの眼の紋様が、シンバルベリルのように真紅に光った。

 天の眼が、ストラを取り囲んだ。


 ゴルダーイは、この天の眼により、密かにレミンハウエルとストラの戦いをリサーチしていた。すぐそばで見ていたというより、遠方より魔力の動きをつぶさに観測していた。


 そして、ストラを倒す方法を思いついたのだった。


 レミンハウエルが魔力を超高濃度に凝縮し、超魔力ヨーヨーとしてストラを攻撃した際、あまりに凝縮した魔力(ストラの認識では魔力子マギコリノ)が空間破砕効果を得て、ストラのテトラパウケナティス構造体を一部「分解」したのを認めていた。


 それは、瞬時に修復されるレベルの攻撃(しかも、偶然そういう効果が顕れただけで、レミンハウエルにその意思は無かった)だったが、ゴルダーイは無敵の異次元魔王を倒すヒントなのではないかと看破した。


 重奏される鐘の音が重なってはズレて、とてつもない規模のヘテロフォニーとなって空間を侵食しはじめた。


 元より神聖魔法はその魔力の特性上、直接攻撃より間接攻撃を得意とする。

 強大かつ広範囲な結界による空間攻撃などは、その最たるものだ。


 歪みは地上にも降り注ぎ、かろうじて生き残っていた王都の人々を直撃した。まるで気象兵器めいて大気がされ、限界を突破した超絶高気圧が生身の肉体を破壊する。


 全身の穴から血液を吹き出し、たちまち数万人が即死した。

 (……う……)

 そしてストラ、その空間を揺るがすヘテロフォニーの効果に気づいた。


 次元振動が、中和しきれなく・・・・・・・なってきた・・・・・のだ。

 (バカな……)

 すなわち、浸食速度が光速演算を超えてきていることを意味する。


 (浸食が速すぎる……位相空間制御プログラムで対応するにも、いったん浸食を止めなくては……)


 完全な戦闘バトルモードでは複数光速演算により位相空間制御プログラムと圧倒的超絶物理攻撃制御を最高出力で同時に行えるが、準戦闘セミバトルモード以下の現状では、禁則が組まれており、全開で行うのはなかなか難しい。それは、消費エネルギーが大きく、自己修復が追いつかなくなるのを防ぐためでもある。


 まず牽制のためにストラ、熱源として高エネルギー場を右手に発生させ、200メートルほどの近距離から数多の天の眼の中心にいるゴルダーイめがけて撃ちつけた。大出力レーザー砲だ。


 が、眼の紋様の一つがそれを受け、波打つように相殺し、消滅した。

 (空間防壁と同じ効果が出ている……)


 既にサーチ済みの天の眼は、大小合わせて74あった。しかも、次々に増え続けている。


 (75……76……82……87……)

 高速で増え続け、ストラの周囲が天の眼で埋め尽くされはじめた。


 (あの右眼窩に埋めこまれたシンバルベリルだけの魔力子マギコリノで、これほどの紋様状エネルギー放射ユニットを作製・制御し、大規模空間浸食を……?)


 ストラは自らの周囲に高エネルギー場を複数発生させ、そこから曇天下に浮かび上がる真紅の眼の紋様めがけ、幾筋もの高圧熱線を矢継ぎ早に撃ち始めた。紋様の大きさによっては一撃で消去することはできなかったが、ほぼ2、3発で消滅することができた。


 だが、ほぼ同じ速度で天の眼は出現し続けた。


 高圧ビーム砲が大気を切り裂いて炸裂する音と、天の眼が消滅する狭窄音がかつて王都だった上空に高速かつ連続して響いた。さらに光が弾け、昼間なのにストロボめいた閃光が眩しく明滅した。


 そのまま、一進一退の攻防により、膠着する。

 こうなれば、魔力が先に尽きたほうが負けだ。

 もっとも、ストラの攻撃は魔法ではない・・・・・が。

 それは当然、ゴルダーイも気づいている。


 (コイツ……ホントに・・・・魔力を使ってない! 異なる世界から流れてきたってのは、ホントなんだ……! それにしたって、魔法の・・・無い世界・・・・なんて、存在するんだ……!?)


 驚きをもってその事実を受け止め、対応を探った。

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