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第7章「かいほう」 4-7 たいして変わらない

 「ええ、おいふぃいれふう」


 口に汁の具を溜めこんでそう答えるペートリューはしかし、味はよく分からなかった。酒以外の味はもう、よく分からないのだ。


 また、スープの合間にも、同じ小椀にどぶろく・・・・めいた土俗的ワインを注いで一気飲みするものだから、見る間に腹が膨れてくる。


 「やるじゃないか、ペーちゃん! ようし、私も……」

 なぜかルートヴァンが妙な対抗心を出し、片端から汁ものを平らげて行く。


 ついでにストラも、黙々かつ粛々と匙を動かし続けた。もちろん、ストラは人類疑似行動であり、食べて飲んだそばから原子分解し疑似呼吸等で輩出される。


 「おお……!」

 そんな感じで3人が見る間に大椀を空けてゆき、エルフたちが感嘆する。

 「おい、御代わりだ!! 皆様に御代わりを!!」

 キュヴュイィがそう指示し、大椀がどんどん満杯のものに入れ替わった。


 それからしばらくし、

 「ア、アタシはもういいぜ、ごちそうさん……!」

 「あっしも、もう入らねえでやんす」

 2人が脱落した。


 ルートヴァンもそれからすぐに満腹となり、ペートリューもついにダウン、床に転がるようにして気絶してしまった。ただストラだけが、23種類にも及んだ全てのスープ料理を平らげ、バレゲルエルフ達を喜ばせた。


 満腹すぎて動けず、這うようにしてゲストハウスまで戻った一行(ペートリューはストラが抱き上げて運んだ)、案内のエルフが満面の笑顔で去ってから充分に盗聴の危険性を確認して安全を確保したのち、ようやく本音で語り始めた。バレゲルエルフの住宅は玄関で履き物を脱ぎ、家の中では清潔に保った床に敷物を敷いて座るものなので、これまでの馬車行で床に直に座るのも慣れた一行は、勝手知ったる感じでそれぞれ床に寛いだ。神殿と同じく非常に暗い燈篭とうろうしかなかったので、またルートヴァンが照明の魔術を唱えた。


 「こんなに飲み食いしたのは、久しぶりでやんす」

 ひっくり返って天井を仰ぎ、プランタンタンがうめいた。


 「で、ルーテルさん、連中の機嫌も取ったことだし、監視も緩んでいるんでしょう? これからどうします?」


 フューヴァの声にルートヴァンが満足げにうなずき、ストラへ向き直ると、

 「……聖下、明日の王都襲撃ですが……」

 「うん」

 「是非とも、私だけをお連れくださりますよう」

 「なんだって!?」

 ストラが答える前に、フューヴァが床から立ち上がった。

 「ルーテルさん、そりゃあねえぜ、どういった魂胆だ!?」


 「まあまあ、フューちゃん。相手も魔王だよ。聖下がレミンハウエルと戦った時も、みんなは避難してたんだろう? 今度は最初からそうするだけさ。聖下に、余計な御手間をかけさせないためにもね」


 フューヴァはしかし、小鼻で笑って、


 「フン、悪いけどルーテルさんよう、ストラさんと魔王の戦いにかかっちゃあ、アタシらもアンタもたいして変わらねえぜ。アンタもアタシらといっしょに、大人しくここで留守番してなよ」


 それにはルーテルがカチンときて、片目に小じわを作りつつ憤りを隠し、やれやれといったふうに立ちあがって、


 「申し訳ないけどね、フューちゃん、それはちょっと、僕を侮りすぎていると思うよ」


 フューヴァも負けていない。背の高いルーテルを見上げながらガンをつけ、


 「分かってねえのは、ルーテルさんだぜ。アンタがいくらものすげえ魔法使いでも、魔王と魔王の戦いの場にいて無事でいられるとは到底思えねえな」


 「まるで、聖下以外の魔王を見たような物云いじゃないか」

 「フィーデ山のナントカって魔族の魔王なら、見たぜ」

 「レミンハウエルを?」


 レミンハウエルに会ったことがあるのは、シラールとヴァルベゲルだけで、ルートヴァンは謁見を許されないまま、ストラに倒された。


 「それで、アッという間に、ストラさんがアタシらを避難させたんだ。魔王ってのは、それほどってことなんだろ? アンタだって、結局ストラさんのアシを引っ張って避難させてもらうんだったら、アンタの御矜持・・・ってえもんが傷つくんじゃないの?」


 「な……!!」

 一瞬、息を飲んでルートヴァン、


 「いや、分かっていないのは君だよ、フューヴァ・・・・・。ヴィヒヴァルンの上位魔術師の扱う魔力は、魔王級さ。自分の身くらい、自分で護れるよ!」


 「ハア!? そういう問題じゃねえよ。アンタになんかあったら、王様や師匠さんにどうやって説明するんだよ、ストラさんがよ!! ストラさんに、アンタを気遣いながら戦えっていうのか!?」


 「下賤の癖に、口の減らない女だな!!」

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