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第7章「かいほう」 4-2 命すら感じない

 「今着ているのは、ヴィヒヴァルンの王様に仕立ててもらった人間の服でやんす。ゲーデルの山ん中じゃあ、エライ連中は確かにゲーデル山羊のキレイな毛織物でやんしたが、まあ、他の連中は麻や木綿の服で……もっと地味な色あいでやんした」


 「へえ。変わってる・・・・・な」


 プランタンタンは眉をひそめて口元を下げて前歯を出し、どっちが変わってるんだと内心思ったが、余計なことは云わないほうがいいと黙っていた。


 やがて、巨木の合間に集落が現れる。


 地面や木の上に木造の小屋があり、立体的な村を形成していた。小屋からは、囲炉裏の煙が立ち上っている。梯子から屋根から、全てが木造だった。完全に木の文化だ。隊長エルフが集落を手で指し示し、ストラへ説明した。


 「ここは、バレゲルエルフの村落の中でも中心的な場所です。御聖女おんせいじょの本殿があるし、族長会議の会議所もあります」


 ストラは、既に半径約30キロ単位で広域三次元探査中だ。

 ルートヴァンが物珍しそうに集落を眺め、

 「こういったムラが、いくつあるんだい?」

 「はい、7つ、あります」


 隊長は既にルートヴァンを魔王一行のナンバー・ツーだと(勝手に)認識して、ルートヴァンに対しても敬語だった。


 「じゃ、族長会議とやらは、7人で?」

 「はい」

 「さっきの、大総……」

 「大総主長様ですか?」

 「その方は、族長を兼ねている?」


 「いいえ、族長の中から選ばれますが、選ばれた時点で族長を譲るので、兼ねておりません」


 「じゃ、意思決定機関は8人か」

 「はい」

 等と話し合っている間に、木々の合間の広場に到着した。


 一様にカラフルかつ素朴な衣装を着こんでおり、また対象的に、まるで迷彩のような木の枝葉のみのを着こんだエルフ達が、物珍し気に集まった。みな髪は闇のように漆黒で、肌も木肌のように褐色が多く、眼だけが銀灰色にギラギラと光っている。


 また、ほぼ全員がプランタンタンほどの背格好で、同じエルフでもかなり小さい。子供たちなど、人間の幼児のようだ。背の高いルートヴァンは、ひょろっと突き出て、非常に目立った。


 「大総主長様はいずこだ?」

 エルフの隊長が、バレゲルエルフ語で尋ねる。

 「ここだ」


 老人の声がして、両脇に控えと介助のエルフの少年少女を従えた、白髪の老エルフが現れた。


 「大総主長様!!」


 隊長が駆け寄り、地面に跪いた。周囲のエルフ達も、腰をかがめて身を低くする。


 「自ら、御出ましに……!?」


 「たわけ。魔王様が来られたのに、出迎えるのが当然。どちらが、その、魔王様なのだ?」


 「こちらの御方が、異次元魔王ストラ様です、バレゲルエルフの大総首長様」


 少し前に出たルートヴァンが魔術で調整したバレゲルエルフ語をもって、半眼で彫像めいて突っ立っているストラを指し示した。


 「おおっ……!?」


 大総主長ディーンボロウが、白内障のように光る白い瞳をストラに向ける。元々瞳は銀灰色だが、老化によりほとんど見えない。898歳になる。エルフとはいえ、それこそかなりの高齢だ。


 (こ、これは……なんということだ……まったく魔力を感じない……!! そ、それどころか、命すら・・・感じないではないか……!! この魔王様は、本当に生きておられるのか……!? まさか、伝説の不死の怪物なのか……!? いや、魔力が無いのであれば、伝説の不死者でもない……! まったく分からない、我々の誰も知らぬ……まさに、異なる世界・・・・・から来られた・・・・・・かのような・・・・・存在だ……!!!!)


 ストラをそう看破したディーンボロウ、わなわな・・・・と小さく震えていたが、やがて地面に両手両膝をつき、ゆっくりかつ深々とこうべを垂れた。


 あわてて、その場にいた全エルフが地面へ土下座し、ストラに平伏した。


 ストラはしかし、我関せずといった雰囲気のまま、三次元探査を続けていた。エルフ達の生活や信仰の空間記憶を探り、聖魔王にして御聖女の詳細情報を探っていたのだ。


 が、探れば探るほど、御聖女の情報を最も有しているのは、眼前で小刻みに震えながら土下座している最長老であると分かった。


 そんな、いつのまにやらその半眼を大総主長へ鋭く向けているストラに気づいたルートヴァンが、ニヤッと笑いながらフューヴァやペートリューへ目配せし、こっそりとバレゲルエルフ達を指さした。


 「あ……ああ……っと」

 思い出したように、フューヴァは前に出てストラの横に立った。

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