第7章「かいほう」 3-9 バレゲル森林エルフ
ただし、あくまで麻痺程度の出力だった。
「クァア!!」
いかにもトリっぽい声を発し、凶鳥ども、いっぺんに倒れる。ほとんどが気絶したが、中には痙攣して足を動かす者もいた。
「クソが!! なんなんだ、こいつらはよ!!」
荷台から這い出てきて、フューヴァが叫ぶ。
「ルーテルもペートリューも起きやがれ!! 敵の襲撃だ!!」
ペートリューが這う這うの体で、なんとか荷台から地面に下りた。頭がくらくらしている。二日酔いだけではない。ペートリューも、次元波動の影響を受けているのだ。
「ル、ルーテルさん、しっかり……」
それでも、なんとかルーテルを荷台から引きずりだした。
ルーテルはペートリューに引きずり出されて地面に落ちた衝撃で、やっと目を覚ました。
「な、なん……な……!?!?!?」
まだ次元波動の影響で意識朦朧とし、わけがわからぬ。
「ストラさん、こりゃあ……!? このバケモノトリ、大神殿の追手ですか!?」
「ちがう」
「えッ……!?」
「エルフ」
ストラがぶっきらぼうに云い放ち、半眼を未だ開いている次元回廊の出口へ向ける。
フューヴァもその方向へ向くと、認識を根本から覆す者どもがゾロゾロと出現した。
「エ……エルフですって!? こいつらが!?」
「いかにも! 我らはバレゲルエルフなり!」
ヴィヒヴァルン語で、エルフ部隊の隊長と思わしき男性が声を張った。
隊長の後ろに、やはり20人ほどの蓑を着こみ、短く細い刀で武装したエルフがいる。
(どっちかちゅうと、タケマズさんに似ているぜ……!)
フューヴァがそう思うのも無理はない。みな小柄で、髪は真っ黒。着ているものも麻のように見えるが恐らくもっと原始的な植物の繊維であり、木の枝葉を編んだ蓑を着ている。肌も日焼けして茶色に近く、眼だけが銀灰色にギラギラと光っていた。なにより顔立ちが、プランタンタンやエーンベルークンらゲーデルエルフ、プラコーフィレスらフィーデンエルフ、そして名も知らぬアデラドマエルフと完全に異なり、眼は丸かったり細かったりだが基本的に一重、鼻も団子で、耳もそれほど尖っていない。なにより、のっぺりとして凹凸が無い。まさに「平たい顔族」だ。
バレゲル森林エルフ達である。
「……で、そのエルフどもが、なんだってアタシらを襲うんだ? まさか、王都派とやらへの密命を奪うためか? おい」
フューヴァが腕を組み、まるでルートヴァンのような顔つきとなってエルフ達へその刃物のように細く光る眼を向ける。
「その通りだ」
20もの凶鳥達が倒れた戦馬に寄ってたかって襲いかかり、兵士を何人も蹴り殺すことのできる巨大馬は、2頭とも既に絶命していた。もっとも、その凶鳥も、ストラの球電に撃たれ、全てひっくり返っているが。
プランタンタンは震え上がってストラの足にしがみついており、ペートリューが寄り添うルートヴァンも、まだ半分も意識が無い。
ストラが、いつもの半眼無表情でフューヴァを凝視している。
フューヴァが、武者震いした。
賭けに出る。
「おい、エルフども……密命は密命でも、こちらの御方が魔王様だと知っての行動か?」
「?」
エルフ達が、互いに眼を合わせた。
動揺している。
隊長がそんな部下たちを手で制し、少し前に出た。
「いま、魔王と云ったのか?」
「ああ、云ったぜ」
「ヴィヒヴァルンの魔王は、フィーデ山の火の魔王ではなかったか? なぜ、こんなところにいる? 魔王というのであれば、もしや王都派密使というのは、欺瞞か? 何のために、そのようなことをする?」
いっぺんに云われ、フューヴァも戸惑いつつ、最初の質問から答える。
「フィーデ山の魔王は、こちらの御方が倒した。そして、フィーデ山の魔王から直に次なる魔王の称号を授けられたんだ。イジゲン魔王、ストラ様だぜ!!」
「いじ……なに?」
「イ・ジ・ゲ・ン!! イジゲン魔王だっつうの!!」
「どういう意味だ?」
「え……」
なんだっけ……フューヴァが奥歯をかむ。タケマ=ミヅカは、どう云っていた? 懸命に思い出した。




