第7章「かいほう」 3-8 異端の連中
いきなり空間が凹み、押し返されるような次元衝撃の後、内側よりホール出口が出現。
それに伴う猛烈な次元波動効果で、せっかく懸命に効果を確保、保持していたルートヴァンの魔術は一気にぶっ飛んで破られた。
「なんだああ!?」
驚愕と共にルートヴァンが叫んだ瞬間、脳天を次元波動が襲った。ふいを打たれたルートヴァンは、ひっくり返って気絶してしまった。馬車はそのまま実体化して姿を現し、通常速度でパカパカと街道を進んだ。プランタンタンは魔術が破られたことに気づかず、そのまま手綱を取っていたが、
「わ、わあッ……!!」
いきなり、続々と騎竜よりも大型の二足歩行のトリが現れたので、仰天して手綱を引く。
その巨鳥、次々に出現して街道を埋め尽くし、いっせいに馬車を襲った。巨大なクチバシに、ぎょろりとした目玉、竜よりも太い足に、さすがの戦馬も嘶きをあげて急停止する。
バラゲル森林エルフ達の使う、凶鳥の群れだった。
20匹はいる。
「ル-テルさん!?」
いきなり倒れたルートヴァンに驚いて近寄ったフューヴァは、馬車が急に止まったのでバランスを崩し、そのままルートヴァンに重なって倒れこんだ。荷物がいっせいに動いて、馬車の中はたちまちぐちゃぐちゃになった。
(なお、ストラは重力制御により、床にくっついているかのように微動だにしていない。)
同時に、街道の遥か前方でルートヴァンを攻撃していた聖騎士達を襲ったのは、
「なんだ!?」
「ベッ……狼竜だ! 防御展開ィイ!!」
命令するも、完全に不意打ち、奇襲だった。聖騎士たちがルートヴァンとの魔術戦に集中し、次元回廊が接近してくるのにまるで気づかなかった。
襲ったのは、四つ足で地面を疾駆する中型の肉食恐竜のような、森林や平原生活に特化した竜の一種だった。全長がゆうに3メートル、尾も含めると4メートルを超すバケモノだ。凶鳥も、狼竜も、バレゲル森林エルフの使う怪物である。大神殿の周辺は徹底的に駆除され、野生では生息していない。
すなわち、この襲撃は……。
「異端の連中めが!!」
革や薄板金の軽装備に身を包んだ神官兵が抜剣する間もなく、鎧ごと咬み殺される。そのスパイクめいた牙は、容易に鞣革や薄板金を貫通した。
また、剣の一撃ごときでは、鱗が少々はがれる程度で、とても致命傷にはならない。狼竜は長槍による集団戦法か、魔術戦で戦うのが鉄則だ。
こんな、軽装備の遊撃隊が戦う相手ではない。
まして、その数、凶鳥と同じく、やはり20ほどもいる。
「ギャア!!」
「アアッ……!」
「御聖じょさ……!!」
祈る間もなく、次々に兵士が食い殺されてゆく。
「この魔獣どもめが!!」
聖騎士が魔法剣を抜きはらい、飛びかかってきた一頭に切りつけた。さすがに攻撃力+30付与の魔法剣は、竜の鱗を貫く。
「ギャウン……!」
犬みたいな悲鳴を上げ、一頭が血しぶきを上げてひっくり返ったが、攻撃の後に硬直している後ろより違う一頭に襲われる。竜の大きな顎に首をへし折られて、聖騎士が一撃で絶命した。そして暴れる馬から落ち、折られた首を食いちぎられた。
「たいきゃ……逃げろ!!」
遅きに失した。
狭い街道で、完全に包囲されている。
聖騎士6人、神官兵64人からなる正規部隊が全滅するのに、そう時間はかからなかった。
そして、ストラたちは……。
2頭の戦車馬と馬車が横倒しとなり、縛っていたペートリューの酒樽も縄が切れて転がった。ペートリューは、運が良いのか分からないが、その転がった樽の上に落ちた。
運が無いのは、ルートヴァンとフューヴァだ。あやうく大樽の直撃を受けるところだったが、ストラが動いた。ほとんど一瞬で移動するや、樽を片手で一つずつ押さえ、そのまま荷台の後ろの扉を破って外に出た。
「だ、旦那アア!!」
御者台から投げ出され、地面へうつぶせになって頭を抱えていたプランタンタンが悲愴的な声を上げていた。周囲を、ドシドシと凶鳥の太い足が交錯している。細いプランタンタンなど、一撃で胴体を蹴りちぎることのできるパワーを秘めている足だ。
「……」
ストラが正確に20匹の凶鳥めがけ、同時にプラズマ球電を放った。




