第7章「かいほう」 3-7 答えは1つ
馬車のなかでその異変に気づき、ルートヴァン、
(まさか……連中、ヴィヒヴァルンの魔術式に対抗する神聖魔術を開発している……!? いつのまに……どうやって……!?)
答えは1つだ。
魔術院に……しかも、かなりの高位魔術師にして学院や組織の幹部に隠れウルゲンがいて、魔術の種類や内容を漏らしていたというわけだ。
(フ、フ……隠れウルゲンども、是が非でも根絶やしにする必要があるようだな……!)
すぐさま術式を組み換え、効果を持続しつつ干渉魔術をやり過ごし始める。
この辺の攻防は、我々で云うサイバー戦に感覚が近いかもしれない。
全て目に見えぬ魔力の戦いであるから、プランタンタンやフューヴァには分からない。何事も起きていないと思い、プランタンタンは馬車を進めた。
ただ、ストラはその魔術戦を全て観測・記録していた。
なんのために?
自分でも、よくわからなかった。
おそらく、いつの日か元の世界に戻った時に、未知世界の観測・記録をすることによって、待機潜伏自律行動の証拠として提出できるように。
であろう、と思った。
その辺の曖昧さは、兵器としてのプログラムと人間の魂魄との間のゆらぎとしか云いようが無かった。
また、未知素粒子である魔力子(仮称)の観測でもあった。この世界の人類が魔力子をどのように操作し、利用しているのか。未知の理論・法則であるがゆえに、ストラにできることは、ひたすら観測し、データをなるべく多く集めることだ。
集めて、どうするのか?
よくわからなかった。
とにかく、他にすることが無いから、としか云いようがない。
集めるために集めるのだ。
(一種の、暇つぶしなのかも)
そもそも、兵器に暇つぶしが必要なのか?
ストラは、次元断層多重通過効果により、その辺のプログラムにバグが生じているのかもしれない。
それはそうと……。
ウルゲリア神聖呪文によるルートヴァンの魔術式への干渉は、ルートヴァンの絶え間ない術式変換と、聖騎士たちの術式浸食速度の勝負だった。
(クソッ……どうして、こんなに速く対応できるんだ……!? たかが、御祈り呪文のくせに……!!)
答えは、これも1つしかない。
魔術院に潜む隠れウルゲンは、幹部は幹部でも……下手をしたら主任教授クラスであり、単に魔術の内容を漏らしていただけではなく、ヴィヒヴァルン流魔術の基礎術式から奥義まで知る限りの情報を流し、対抗呪文を構築させていたのだ。
(おのれ、反逆者めが!!!!)
ルートヴァンは怒り心頭になりながら、魔術院の授業や実地訓練とは比べ物にならぬほど高度かつ緊迫した魔術戦に、昂揚してきた。
一方、攻め手の聖騎士たちは、動揺していた。
攻撃しても攻撃しても、防御側の術式変換・修正が異常なほどだ。
しかも、聖騎士は1人ではない。2人で同時攻撃してる。
ルートヴァンの対応速度と魔力が、尋常ではなかった。
少なくとも、濃い青色か黄緑に近いシンバルベリルを使用していると思われるほどだ。
が、ルートヴァンは、シンバルベリルを持っているわけではない。
これは、合魔魂体と化している実の父親より時空を超えてシンバルベリルを所持しているに匹敵する魔力が供給されているのである。
(こ、これほどの魔術師を密使に仕立て上げるとは……!! 王都派め、いったいどんな密命を……!?)
これは、司祭長格では対処できないかもしれない。
だが、負けるわけにはゆかぬ。
神聖魔力は、信仰の強さにより一定の魔力増が見こまれる。
信仰心を試されているという側面もあるのだ。
だが、ルートヴァンの防御は、非常に手堅い。
そのルートヴァン、攻め手の手数が次第に減り、勢いも緩んできていることを感じ、
「勝った!!!!」
確信した。
そのような状況の中、ストラは、観測中の次元回廊が順調に構築され、当該次元に到達することを確認した。
(……4……3……2……1……次元回廊接続、開通します)




