第7章「かいほう」 3-5 聖騎士部隊出撃
「どうした?」
「何があった!?」
それぞれ50代後半から60代前半の4人の大教司祭たち、性格も様々で次の大神官位を狙うライバル同士でもあったが、神殿総長の青ざめた顔に、事の重大さを認識した。
そのアローデン教司祭神殿総長、ゴクゴクと唾を飲み、
「はい、それが、ど、どうも……」
そこで思いきり声をひそめ、耳が遠くなってきている大教司祭たちは、顔を近づけざるを得なかった。
「隠し街道が見破られ、連中はそこを通っているようです!!」
「げえっ……!」
4人のうち3人が、カエルを踏みつぶしたような声を発した。1人は、息をのんだまま喉が詰まってしまい、ドンドンと胸を叩いてなんとか呼吸を再開した。
「どっ、どうやって!?」
「どうやってもなにも、魔術で出入り口を見破ったのだろう!」
「どうやってだ!?」
なぜ、彼らがここまで驚き、焦っているのかというと、ストラ達が通っている隠し街道は、大神官を含む、彼ら神殿上層部の非常脱出路だからである。
そのため、厳重な秘匿神聖魔術で隠されていた。ただの幻覚や錯覚ではなく、空間を歪める高度なものだ。本当にそこに大木が生えていて、その木を触ることもできるし、裏側へ回ることもできる。
それを、打ち破るとは……。
「それほどの魔術師が……!?」
「いくらヴィヒヴァルンとはいえ、貴族の庶子ではなかったのか?」
「ただの隠しウルゲンではあるまい! ルテロークめ……いったい、何の密命を託したのだ……!?」
ここまでの2か所の関所はバレゲル派であり、密かに大神殿へ報告がなされ、彼ら大教司祭たちだけではなく、大神官にまで情報は上がっている。
そんなこととは露知らず、ストラ達が大神殿へ寄ったならばその場で即時拘束、寄らなかった場合も聖騎士と軍団を派遣して拘束する手筈ではあったのだが、まさか隠し街道を発見して通ろうとは想定外だ。
「いますぐ、猊下に御報告を!!」
「聖騎士を出せ!! 2部隊を差し向けよ! 挟み打ちだ!!」
「何としても捕えるのだ!」
普段は腹を探り合い、いがみあっている大教司祭たち、やはりいざという時は団結し、行動も早い。それぞれが役割をきっちりと果たし、大神官の判断を仰ぐころには、聖騎士の率いる神官兵士部隊がフル装備で、いつでも出撃できる態勢で待機していた。
「王都派の間者が? 隠し街道を?」
昼過ぎの祈りを終えて、自室に戻ったばかりのチェーコル大神官は、驚きを隠さず大教司祭たちの報告を受けた。72歳になり、少し体力が衰えたものの、未だ矍鑠としている。
「いかさま……!」
「どういう意図か?」
「ハ……詳細は、間者どもを捕らえ、泥を吐かせてみぬと分かりませぬが、たまたま隠し街道を発見したものか……それとも、隠し街道の情報をどこかで入手し、確認のために通っているのか……」
「なんにせよ、王都派の上層に隠し街道が露見することは、避けなくてはなりません!」
「その通りだ。神官兵の動員を許可する! 絶対に捕え、王都派の陰謀を暴け!」
「ハハッ!!」
ストラたちは、すっかり王都派の重大な密命を受け、ヴィヒヴァルンより王都を目指す秘密の使者に仕立て上げられていた。
「馬引けえーーい!!」
聖騎士3人に率いられた32人からなる追撃部隊が2隊、大神殿を出撃する。総勢70人の大部隊だ。数年に一度、森林北部に巣くう異端派を討伐する際のような重々しさだった。
そのまま、何事かと驚いて見守る信徒たちの前を走り抜け、森の中の社殿町を出て、街道を駆けた。
隠し街道へ通じる「隠し口」は何か所かあり、聖騎士たちは全て把握している。
聖騎士隊長が神聖呪文を唱え、大神殿より最も近い場所から隠し街道の支道に入ると、
「では、我らは裏手に回る!」
「頼んだぞ!」
二手に分かれ、ストラたちを挟撃しに入った。
と、いう情報は、当たり前ながらリアルタイムでストラには筒抜けである。
半径数十キロの広域三次元探査は、既に大神殿を含んでいる。
また、ルートヴァンも予防措置として「危険を察知する魔術」を馬車にかけている。が、残念ながらそれはレーダー的なものではなく、どちらかというと未来予測に近い。
とはいえ、この魔法の世界における「嫌な予感」は、けして単なる気のせいとかではなく、魔力の流れを掴むので、我々の根拠のない占いなどに比べると、かなり正確だ。




