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第7章「かいほう」 3-4 魔王に試されている事実

 「ち、ちち、ちがいます……」

 ペートリューも、モソモソと荷台から降りた。


 「ル、ルーテルさん、ヴァルンテーゼ魔術院卒業の私の先生に、む、むかし云われたことがあるんですけど……その……ウルゲリアの神聖魔法は、その……我々の魔術とは、根本から異なると……」


 「あ……!!」


 ストラに云わせれば、未知の素粒子である魔力子マギコリノ(仮称)の固有振動パターンとやらが異なるのだろうが、この世界の人々にしてみれば、魔力の性質が違うということになる。


 すなわち、魔術師が使う魔力と、神官や司祭が使う神聖魔力は、異なるのだ。


 「そ、そうか、神聖魔術か……!! ウルゲリアだもの、あたりまえだ!! 私としたことが、そ、そんな基本のキを見逃していたとは……!!」


 驚愕とショックで、ルートヴァンがわなわな・・・・と震えた。こんなことがシラールに知られたら、初等基礎魔術50種類詠唱練習300回の罰をくらうだろう。


 「なにごとも焦ったらダメだぜ、ルーテルさん。……なんつってな」

 フューヴァが、そう云って笑った。


 「あ……ありがと、ありがとう!! フューちゃん、ペーちゃん!! 本ッ当にありがとう!! 足元が、完全にうわついていたよ!! 取り返しのつかない大失態を犯す前に、自己の慢心に気づかせてくれた……! 聖下も含めて、みんな大恩人だよ……!!」


 涙を浮かべてそう云うルートヴァンに、嬉しくもあり、面映おもはゆさもありで中途半端な笑顔を浮かべていたフューヴァとペートリューだったが、


 (なに云ってんだ、こいつ……)

 と、内心ドン引きした。

 「すいやせん、まだでやんすか?」

 御者台から振り返って、呑気にプランタンタンがそんな声を発した。

 「よ、よし……見ていてよ!」


 云うが、ルートヴァンは対神聖魔法術を作動。術式により魔力が調整され、神聖魔法を発見し、打ち破る。効果は術によって様々だが、いまは隠蔽術の発見と破壊だ。


 ギュゥ……と空間にゆらぎ・・・が生じ、敏感なプランタンタンが耳を押さえた。馬たちも異常を感知し、動揺したのでプランタンタンがなだめる。


 クシャッ、という卵の殻をつぶしたような音がして、今まで大きな杉の木があった場所に、分かれ道が出現した。


 「ヨッシャ!」

 フューヴァが手を打ってガッツポーズ。

 ルートヴァンは安堵しつつもドヤ顔で、

 「まあ、本来であれば目をつむっていてもできることだけどね」

 と云いかけて、あわてて口をつぐんだ。


 「よし、出発だ、ルーテルさん、乗ってくださいよ」

 「う、うん、ありがとう」

 二人が乗りこみ、プランタンタンが馬車を出発させた。


 荷台内の定位置の自分の敷物に座り、ルートヴァンが胸に手を当てていると、ふと、ストラが微笑を浮かべて自分を見つめていることに気づいた。


 ルートヴァンは心より感謝すると同時に、魔王に試されている事実に震え上がった。



 「た、大変です!!」


 大神殿ともなれば、巨大な役所と王宮が一体になったようなものだ。大神官を頂点に、完全な宗教的官僚機構が構築されている。ウルゲリア信仰では大神官が2人体制で、かつては交互に国王を勤めていたが、ここ数代は諸事情あって王都派が大神官王を輩出している。


 従って、何かしら異変があったとして、王にも匹敵する大神官まで情報が上がることは滅多になかったし、上がったとしても相当に時間がかかった。


 それが、ストラ達が裏街道に入ってから2時間ほどで大神官の知るところとなったので、超非常緊急事態重大案件として情報が伝達されたことになる。


 ちなみに、バレゲル大神官の下には4人の大教司祭がいる。また、ウルゲリア神殿組織の階級は下から数えて見習い神官(神官補)、神官、神官長、司祭、司祭長、教司祭、大教司祭、大神官である。これは、王都派もバレゲル派も変わりがない。


 大教司祭は、大神官の元、バレゲル派の4つの教区を預かっている責任者で、普段は大神殿と任地を行ったり来たりだが、この日はたまたま月に一度の会議の日だったので、全員が大神殿にいた。大神殿総務総責任者(いわゆる、事務方のトップ)であるアローデン教司祭神殿総長が、転がるようにして4人の大教司祭の元へ自ら周り、会議室へ集まってもらった。事務方が大教司祭を「呼び出す」のは、それだけで非常事態を意味する。なぜなら、4人そろって大神官に事態を報告する義務があるからだ。1人1人回って説明する時間が無いほどに、非常事態なのである。

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