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第7章「かいほう」 3-1 入れこみすぎ

 そこでルートヴァンが手にしていたパンを入れ物の蓋に置き、威を正して焚火の前に座りこんだまま何も口にしないストラに向き直った。


 「しかし、聖下。ひとつ、お尋ね申し上げます」

 「いいよ」


 「聖下は、いったい如何様いかようにして、その探知魔法とやらで相手の心を探っておられるのですか? もし差し支えなければ、何卒この愚かにして無知なる魔術師に御教授願いたく……」


 「よくわかんない」

 「えっ」

 プッ、とフューヴァが失笑し、口を押えて肩を揺らした。

 ルートヴァンが子供のように口をとがらせ、また焚火へ向き直る。


 ルートヴァンにしてみれば、いつまでも「主君」に探知や探査などというような「雑務」「偵察任務」をやらせているわけにはゆかない。祖父や師に、なんのために御側近くに仕えているのかと、どやされる・・・・・レベルである。そのため、自らが代わって行おうと思ったのだが。


 (い、いや待て……そ、そうか……聖下ほどの御方になると、もはや魔術式がどうこう・・・・ではないのだ……! その偉大にして強大なる超絶魔力をもって、まるで物事を考えるように……自然に、相手の心を読んでしまうに違いない……!! 魔術を使うという概念や認識すら、そこには無いのだ……!!)


 ルートヴァンは息を飲み、奥歯をかみしめた。なんと云っても、この世界の・・・・・魔法の無い世界から来たらしいというのだから、そこは、自分達の・・・・知っている・・・・・魔術の無い世界・・・・・・・に違いない。


 (そっ……それを、聖下に直接御教えを乞う等と、なんたる不敬、なんたる不遜、傲岸にして傲慢! この究極の役立たずの愚物めが!! そのようなこと、自ら術式を編み出し、聖下へ御献上奉らなくてはならなかったのだ……!)


 ルートヴァンは急に死にそうなほど恥ずかしくなり、耳まで真っ赤になってプルプルと肩を震わせていたが、やおら立ち上がるやストラの前に片膝をついて平伏した。


 フューヴァとプランタンタンがびっくりして目をむいていると、


 「聖下!! どうか、この救い難く度し難い底なしの大バカ者を御赦し下さりたく!! 相手の心や知識、状況を手に取るように読み解き、我がものとする探知魔術……このルートヴァンめも自力で会得し、かならずや聖下に捧げ奉らん!!」


 「はげめ」


 いきなりストラが据わった声でそう云うや、ルートヴァンは全身が電撃に曝されたような衝撃に打ち震えた。


 「ハ……ハッ、ハハ、ハハアアぁああーーーーーッッッ!!!! ぜっ、ぜ、ぜぜ全身全霊全魔力にかけて、御期待に添えて御覧申し上げ奉りますぅうううう!!!!」


 「ルーテルさんには、今後も状況の推移を深く洞察し、都度適切な判断を御願いします」


 ルートヴァン、はた・・と顔を上げ、


 「なっ……なんたる……なんたる栄誉!! 御任せを!! ほっ、他に何か、私めにできることは御座りませぬでしょうか!?」


 「もう休んでください」

 「えっ……?」

 「睡眠は大事。寝てください」

 「仰せのままに!!!!」


 あんなに昂奮して寝られるのかという勢いで、ルートヴァンが馬車に引っこんだ。

 それを見やって、プランタンタンとフューヴァ、ヒソヒソと囁きあう。


 「どうも、ルーテルの旦那はストラの旦那に入れこみすぎ・・・・・・なんじゃあ、ありやあせんか……」


 「でも、王様も含めて、ヴィヒヴァルンのエライさんは、みんなああ・・だったぜ」

 「入れこむにも、程度ってもんがありやあすからねえ」

 と、ルートヴァンと入れ替わりに、馬車からペートリューが出てきた。


 「起きたのか?」

 「も、もう、夜なんですか?」

 ペートリューが、周囲を見やって驚いた。


 「夜も何も、夜中でやんす。あっしらも寝やすんで、よかったらペートリューさん、夜番をおねげえしやす」


 云いつつ、プランタンタンは毛布にくるまると、馬車の下に入ってしまった。そこが落ち着くらしい。


 「夜番ったって、どうせお前はまた飲むんだろ? 朝まで起きてられるのか?」


 「エヘヘ……やってみないとわかんない」


 ただでさえ赤茶髪なのに、焚火に照らされてさらに赤いボサボサの髪を何度もかき上げ、ペートリューがはにかんだ。


 フューヴァがそんなペートリューを見て微笑みを浮かべ、

 「じゃ、アタシも寝るわ。明日も早えし」

 入れ替わりに馬車に入る。

 「ストラさんも、休んでください」

 「うん」

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