第7章「かいほう」 2-12 ただの小遣い稼ぎ
村長や取り巻きも席に着いて熱心に経典を唱え、腱鞘炎になるのではないかというほど延々と右手を額と胸の前で交互にクルクルクルクルさせ始めたので、仕方もなくルートヴァンとフューヴァも席に着いてつきあった。
(やってられねえぜ……!)
素直にフューヴァの顔にそう書いてあり、ルートヴァンが苦笑しつつ、
「演技でも、神妙なカオしといてよ、フューちゃん」
こっそりと耳打ちする。
「マジっすか」
やがて、昼の祈祷が終わり、神官達が振り返って、
「あれ、来てたのかい」
老婆と、老婆の両隣に立つ、意外に若い……10代後半頃の2人の神官見習いも女だった。3人とも神官装束だが、田舎神殿で全て女神官は珍しい。
「ミヨンテ様、旅の方に、大神殿への許可をくだされ」
「旅の?」
ミヨンテと呼ばれた老婆が大きな目をむいてルートヴァンとフューヴァを見やり、
「ヴィヒヴァルン人か? どうしてまた……」
「はい。我らは、隠れウルゲンでしたが……王政府に発見され、私めが王国有力貴族の庶子だったもので極刑を免れ……ウルゲリアに追放となりました。我らは、聖騎士ルテローク様とヤーゼン様に御導きを受け……」
「ああ、いいからいいから!」
ミヨンテが、ルートヴァンの言葉を遮った。
「許可が欲しかったら、寄進をするんだ。それがきまりだ」
ルートヴァンが、軽く肩をすくめる。
(やっぱり、ただの小遣い稼ぎか)
そして懐より財布を取り出し、
「喜んで御寄付を。なに、追放の身ではありますが、こっそり実家より金を渡されておりますし……あの大きな馬車も、実家が用意してくれました。あ、食料もありますよ。ま、それは、前の関所で分けていただいたものですが」
と、2人の若い神官見習いが、ルートヴァンを凝視しているのに気づき、ルートヴァン、いつも通り無意識でウインク。
田舎娘丸出しの2人はたちまち耳まで真っ赤になり、顔を神官装束の袖で覆って、奥の間に引っこんだ。
「やれやれ……あんたみたいなカオのいい高貴な御方なんざ、こんな村じゃ目の毒さ。はい、これが通行証」
「では、寄進を」
ルートヴァン、銀貨を人数分、5枚出す。両替していないので、ヴィヒヴァルン銀貨だった。レートにもよるが、ウルゲリアでは350トンプほどだ。
老婆が驚きつつ、
「え……いいのかい、こんなに」
「もちろんです、神官様」
とたん、ニンマリと分かりやすい笑顔となり、ミヨンテ、
「さすが、貴族様だねえ。しかも、気風がいいときている」
「よかったな、神殿の雨漏りを直せる」
「ほんとだよう。ありがたや、ありがたや……」
村長と2人して、また右手をクルクルするので、ルートヴァンもそれに応え、
「御聖女様に栄光あれ」
「栄光あれ、栄光あれ……」
そこで、ストラとペートリュー、それにプランタンタンも神殿に招かれ、昼食を馳走されることになった。
だが、プランタンタンを見た瞬間、ミヨンテがギョッとして息を飲み、
「ま……まさか、あんた、エルフ……エルフってやつかい!?」
身をすくめた。
ストラやルートヴァンが、その反応にすかさず目を細める。
「さいでやんす」
薄緑の眼をパチパチさせ、猫背のプランタンタンが前歯を見せてピスピスと鼻を鳴らした。
「あ、あんた達……え!? ヴィヒヴァルンから来たと? どうしてエルフなんか……」
「どうしてもなにも、あっしは、ゲーデルの牧場エルフでやんす。フランベルツの奥の、ゲーデル山脈から来やした」
「なんだって……!? バレゲルの森林エルフじゃないのかい」
「なんでやんす?」
「エルフにも、いろいろいるんだ……?」
ミヨンテは半ば放心して、プランタンタンをまじまじと見やった。
「何やら、訳ありで?」
ルートヴァンが尋ねる。




