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第7章「かいほう」 2-2 芝居

 それ・・を認めた兵士たちが、いっせいに左手に持ち替えた槍を立て、右手の指先で胸と額にマルを描く。


 「ま、まぎれもなく聖騎士長様の印! ヴィヒヴァルンへは、いま、どなた様が……」


 「聖騎士ルテローク様でございます」

 「ルテローク様が……では!」


 「はい、我らはおよそ半年ほど前にルテローク様とヤーゼン様のお導きにより、偉大なる救い主、御聖女おんせいじょ様に帰依しました。えー……話すと長いですが、ここで話します?」


 「い、いや……どうぞ、中に!!」

 役人の指図により大きな扉が開き、プランタンタンが指示のままに馬車を進めた。



 ルートヴァン、ストラ、フューヴァ、そしてプランタンタンは、取り調べ室ではなく応接室に通された。ペートリューは保護され、医務室兼休憩室に寝かされている。


 「お連れの方、かなり衰弱されておりますが……ヴィヒヴァルンで、酷い仕打ちを受けたのでしょうか」


 1人の兵士がえらく心配し、フューヴァへ尋ねた。が、フューヴァはすましたもので、


 「いや、アイツは、酒が無いとああなっちまう体質・・なんです。あの、その……ヴィヒヴァルンで、酒を禁じられちまいまして、その……」


 「そうでしたか! 偉大なる御聖女様の御加護により、聖なる泉と血はいくらでも御座います。どうぞ、好きなだけお飲みに」


 「泉は白ワイン、血は赤ワインのことだよ」

 ルートヴァンが、兵士に悟られぬようこっそりヴィヒヴァルン語で耳打ちする。


 「助かります! どうか、飲むだけ与えてやってください! え……と(なんだっけ)……あ、せ、聖女様に栄光あれ!」


 「栄光あれ!」

 右手でマルを描き、兵士が下がる。フューヴァも、慌てて真似をした。


 ふう、とフューヴァが息をつくと、関所を預かる代官が入ってきたので、みな立ち上がって迎えた。


 「ああ、そのままに。どうか、そのままに」


 云いつつ、もう初老の域に達している代官がマルを描き描き席に座る。一同もいちいち丸を描いて、席に着いた。


 「えー、さっそくですが、皆さまがた……の、御関係は、どういう……?」

 ルートヴァンが手を上げ、


 「我々はもともと、縁もゆかり・・・もなかったのですが、聖騎士様方の御導きで信仰の道に入り……王都やその近郊で、隠れて聖女様に祈りを捧げ、その祈りの輪を広げておりました。しかし、ヴィヒヴァルンの追及の手は長く、そして厳しく……半年もしないうちに、摘発されまして……。ええ、聖騎士様方は、私めにその後を託し、ホルストン方面へ行くといい、去られました」


 「聖騎士様に……!? あ、貴方様は、一体……」


 「はい。どうか、出自の詳細は御尋ねになられませんよう、願います……! しかし、王都に屋敷のある、ヴィヒヴァルンの有力貴族家の庶子……とだけ、申しましょう。聖騎士様は、共に国外追放となったこの者達を、無事にウルゲリアへ送り届けるよう私めに申しつけられました。私は、せめてもと……実家よりの手切れ金で馬車をしつらえ、旅を続けてきました」


 「お、お名前は……?」


 「はい、ルーテルと申します。が、ほぼ仮名と思し召し下さい。実家へ迷惑をかけることとなります。王都に、ルーテルという名の貴族の庶子は存在しません」


 「魔法使いですか?」

 「もちろん」

 「王立魔術院に?」

 「それは、探せば、そういう名の卒業生が見つかるやもしれません」

 「左様で……」


 代官が目を見開き、ルーテルを凝視した。そして、横や後ろの席に座る女たちを見やって、


 「み、みな、国外追放に?」


 「はい、こちらがフューヴァ、こちらが……エルフの身ながら、御救いを願い祈るプランタンタン、こちらが、旅の途中に聖女様に帰依した魔法戦士のストラ、あと、お助けいただいている、魔術師のペートリューです」


 「おそれいりますが、プル……」

 「プランタンタン」

 「……タンタン殿は、どこのなんというエルフですか?」

 「どこなの? プランちゃん」

 振り返って、ルートヴァンが椅子で足をブラブラさせているプランタンタンに尋ねた。


 「あっしは、ゲーデルの牧場エルフでやんす」

 薄緑の目をパチパチさせ、前歯を見せてプランタンタンが云う。

 「ゲーデル……?」

 代官が眉をひそめる。すかざす、横に立つ役人、


 「噴火したっていうフィーデ山の向こうの、ゲーデル山脈のことですか?」

 「そうでやんす」

 「そんな所にも、エルフがいるんですか!」

 「もちろんでやんす」

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