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第7章「かいほう」 2-1 御聖女に栄光あれ

 遠くに砦のような石造りの建築物を発見し、プランタンタンが独り言を云う。

 「さあ諸君、一世一代の芝居を頼むよ!」

 荷台の中でルートヴァンが伸びをしつつ、溌溂とした声をあげた。

 「そう云われると、緊張してきたぜ」

 フューヴァが、胸を押さえてつぶやいた。

 「…………」


 見やると、ペートリューが酒樽の合間で死んだように横たわっている。酒はとっくに切れ、ストラが脳のエタノール受容体を疑似ナノマシンで調整して疑似満足させると共に、必要最低限のエタノールを合成して投与していた。なにせ、いっさいものを食べないので、結構衰弱している。最低限の水だけを、半強制的に飲ませていた。


 「おいペートリュー、生きてるか? あと少しの辛抱だぜ、ウルゲリアに入ったら、飲み放題らしいからよ!」


 見もせずにフューヴァが云い放ったが、ペートリューから返事は無い。

 「マジで死んだのか?」

 フューヴァがペートリューの首筋に手を当て、脈を確認した。


 「生きてるわ」

 「大丈夫だよフューちゃん、僕やスーちゃんもいるんだから」

 「はあ……」


 ルートヴァンはともかく、ストラが時々何やら手をかざしていたのを見ていたので、フューヴァも大して心配はしていない。


 「関所でやんすよ!」

 御者台から小窓越しにプランタンタンが叫び、馬車が速度を緩めた。

 「止まれーッ! 止まーれーッ!!」


 プランタンタンがでかい馬達を暴走させることなく見事に操り、馬車を止めたので衛兵たちも感心した。


 「すごい馬車だな、交易か? どこから来た?」


 感心しつつも、衛兵たちの眼は鋭い。また抜け目なく武装した兵を数人、物陰に待機させている。なぜなら、この街道はヴィヒヴァルン方面へつながっているし、ヴィヒヴァルンとは現在、あらゆる交易が禁止されていて、国交が無いに等しいからだ。


 なぜ交易が禁止されているかというと、20年ほど前よりヴィヒヴァルンでウルゲリアの聖女信仰が禁止され、信徒が弾圧されているからである。完全に国交断絶しないのは、バーレン=リューズ皇帝がそれを禁じたからだ。それは、帝国構成諸国同士の国交断絶は、内戦の始まりを意味するからに他ならない。


 だが、マンシューアル藩王国がフランベルツ伯爵領を攻め滅ぼしたことで、そのタガは外れた。ヴィヒヴァルンとウルゲリアは、一触即発三歩手前……と云ったところだ。


 そんな場所に、最後の一手、秘密兵器として新魔王と国の跡取りを送りこむのだから、ヴァルベゲルとシラールも大胆である。


 「ヴィヒヴァルンでやんす」


 プランタンタンが御者台の上でシラッと云ってのけたものだから、衛兵たちも浮き足だつ。


 「何をしにウルゲリアへ来た!!」

 「待て、そもそもお前……どこのエルフだ!?」

 「荷台の中にも、仲間がいるのか!?」

 「いっぺんに云われても、分からねえでやんす」


 なおウルゲリア語の会話は、タケマ=ミヅカの魔法により勝手に変換されているのは云うまでも無いが、ルートヴァンは、元々ウルゲリア語がペラペラである。敵国の言葉だからといって学ぶのを禁じるなどというのは愚の骨頂で、むしろ率先して学ぶ。スパイでもプロパガンダでも何でもできるし、敵の情報をとり放題なのだから。


 なおストラは、いま現在、兵士達の脳内を深層探査中。

 「おい、下りろ! 荷馬車の中を改める!」

 もう、槍を構えた兵士たちが十人も現れ、馬車をぐるり・・・と取り囲んだ。


 「いやいやいや、御役人様方、お待ちください。我らの救い、偉大なるウルゲンの御聖女おんせいじょに栄光あれ」


 云いながら右手で胸前と額の前に何度もマルを描いて、荷台から左手に棒みたいな白木の杖を持ったルートヴァンが現れた。その仕草、そしてウルゲリア信仰の御題目を聴き、兵士達が、オッ、という顔になる。


 「まさか!」


 「そのまさかです。我らは、隠れウルゲンとしてヴィヒヴァルンで密かに信仰を続けておりましたが……発覚し、このたび、国外追放に……」


 「国外追放だと!?」

 「はい」

 「ウソをつけ、貴様ら、見え透いたことを……間者か!」

 「いえいえ、御役人様、どうぞこちらを御覧ください……」


 ルートヴァンが首にかけていた巾着袋のようなものから、銀のメダルを取り出して見せた。


 「こ! これは……!!」

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