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第7章「かいほう」 1-10 嫌な予感

 ちなみにペートリューは自棄ヤケになって、これからの旅に供えて買った酒をいっぺんに飲んでしまった。


 さらにちなみに、いつも通りストラは人類偽装行動で小さな地下茎を焼いたものをひとつ、ふたつ口に入れただけだった。食物でエネルギーを得ないので、食べた側から原子分解するだけだ。むしろ、エネルギーをロスしている。


 その夜、周囲が原野なのを良いことに、ストラは普段の数十倍の重力レンズを構築し、ほぼ成層圏で宇宙線を集中採集した。相変わらず、総エネルギー量に比べたら雀の涙だったが、それでも少しずつ回復している。


 (あの、フィーデ山においての大規模マグマ溜まりのような大規模エネルギー回収を行う機会が今後、どれくらいあるか……シンバルベリルといっても、赤やそこらじゃ、たかが知れている……やっぱり、1回は宇宙空間で超大規模太陽光集中採集を行わないとダメかも……)


 ストラの最終攻撃用機能の中には、我々の月ほどの直径の重力次元レンズ展開で宇宙線を含む太陽光を集めるものがある。一気にエネルギー回収できるほか、それをそのまま攻撃に使用すれば、まさに超絶巨大ソーラーレーザー砲となる。大陸規模で、焼野原……いや、地殻ごと融解させることができる。


 だが、いまの小数点以下のエネルギー量では、夢のまた夢だ。


 翌日、宿に金を払い、一行は出発した。ルートヴァンは王宮で着ていた豪奢な魔術師装束ではもちろんなく、地味な色の極々一般的な魔法使いの格好だ。ヴァルンテーゼ魔術院卒業の証の、特別な紋様の入ったケープすらまとっていない。ペートリューを、もう少し小ぎれいにしたような姿に、胸下ほどまでの長さの、ただの白木の杖を持っている。


 「だけど、立ち振る舞いに、育ちの良さがにじみ・・・出てるでやんす」

 プランタンタンは、しみじみとそう思った。


 「そういうのは、隠しきれねえんだ。もちろん、逆もさ。カネがあるからって、アタシらみてえのが無理して貴族のマネしたって、どだい無理なんだよ」


 「…………」

 プランタンタンはそんなフューヴァを見つめ、


 (あっしらは、ストラの旦那を王様にして、その貴族になるんじゃあなかったでやしたっけ?)


 などと思ったが、それは黙っていて、


 「ルーテルの旦那が、どこぞのいい所の御落胤だか、隠し子だかっていうことにするのは、いい考えでやんす」


 「確かにな」


 ルートヴァンは、ただの王子ではない。特にあのシラールより政治学から権謀術数まで、魔術以外も含めてその全てを学び、そしてそれを実践するのを楽しみにしている。


 プランタンタンが手綱を取り、晩夏に荒野を進む中、荷馬車の中でルートヴァンが道中を説明する。


 「聖下、これからアルメドス平原をしばらく進みまして、街道はヴルヘニアとスメトルムを横断しますが、その2国は端っこをちょっと通るだけです。5日もすれば、ウルゲリアに入ります。豊かな土地ですよ。帝国の食糧庫です」


 そこを、どうやって手に入れようか、ルートヴァンはもう愉しみでしょうがないといった風だった。


 「ル-テルさん、カオ、カオ」

 「あ、ああ……」

 ルートヴァンが、頬を両手で叩いた。

 「迫害されて国外追放されてるのに、ニヤニヤしてて大丈夫なんですか?」

 「手厳しいね、フューちゃん」

 云いつつ、いつもの癖でウインクを投げる。


 「頼みますよ……」

 流石にタケマ=ミヅカに比べると、いまいち頼りない。

 (でも、この軽さが、逆に世間知らずとして真実味があるのかもな……)

 フューヴァがそんなことを考えて、敷物の上で足を延ばした。

 「……うう……お酒ぇえ……酒……!」


 ペートリューはこの荷馬車の荷台で常に大きな樽の合間で横になっていたが、今もやはり少しでも酒の匂いに包まれようと、ネコみたいに樽の隙間に入っている。そこで、延々と泣きながら酒を欲していた。


 「泣くこたねえだろ……」

 フューヴァは、理由は分からないが、とにかく嫌な予感がしてならなかった。



 2


 宿場という名の荒野の寒村から街道を進み続けて7日半、気がつけば平原国を抜け、ヴルヘニア公国の最南端を数時間で抜けると、今度はスメトルム諸侯連邦の北西部を1日で抜け、いよいよウルゲリアにさしかかった。途中、宿場町は無かったが、通りかかった近くの農村でかろうじて水や食料、巨大馬の飼料を補給できた。酒も少し入手できたが、ペートリューが半日で飲みつくしていた。


 「流石に、関所があるでやんす」

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