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第7章「かいほう」 1-9 これからの大冒険

 「あっしらは、仮信徒ってことでやんすか?」

 「その通り!」

 「それが、あのゴッツイ馬車と何の関係があるんでやんす?」


 「ルテロークの手配で、ヴィヒヴァルンを出てから、護身用に用意してもらったってわけさ」


 プランタンタンは「そうなんだ……」という感じだったが、フューヴァがあからさまにため息をつき、


 「これだから、坊ちゃんちゅうか、王子様っつうの? 困りますぜ」

 「何がだい、フューちゃん」


 「仮信徒でしょう? 隠れ? ウルゲン? だかなんだか知りませんけど、アタシらが、そんな護身用の馬車を用意してもらえるような要人だっていう……」


 そこでフューヴァが小さく息を飲み、

 「まさか、アンタ……」


 「いやいやいや! さすがに、身分を明かしての仮信徒は無いよ~! だけどほら、有力貴族かなんかの庶子とかがさ、王家に内緒で極秘裏に追放されたっていうことさ」


 「じゃ、アタシらは、ルーテルさんの御付きってことですか?」


 「別に、御付きでなくてもいいさ。たまたま、いっしょに追放された他人同士でいいだろう」


 「うーん……」


 フューヴァが顔をしかめ、腕を組んで唸った。どうせストラはいつもの通り、「よくわかんない」か「いいよ」だろうし、フューヴァが判断を迫られる。


 「聖下! この策、如何(いかが)でございましょう!?」

 「いいよ」

 (アッ、クソ、コイツ、アタシに聞く前にストラさんに聞きやがった!)

 フューヴァが奥歯をかんだ。


 「ルーテルさん! いちおう、そういうのはアタシらを通してストラさんに……」


 「いま通してるじゃないか! それに、どうせ君らには判断できないだろ」


 フューヴァが目を細め、憎々し気にルートヴァンを睨んだ。ぐうの音も出ぬ。


 「じゃ、そういうことで、明日にも出発。あ、ペーちゃんには、ウルゲリアへ着くまでなんとかガマンしてもらおう。なあに、ウルゲリアでは、酒は神聖なものとされていて、飲み放題だから大丈夫だよ」


 「分かりやんした。では、女将にそう云って、馬の準備をしておきやす」

 プランタンタンがヒョコヒョコと歩いて、部屋を出る。

 気がつけば、ストラはまた腕を組んで窓の外をただ見つめていた。

 睨みつけるフューヴァを長し目で見やり、ルートヴァン、


 「そんなカオしないでさあ、フューちゃん、大丈夫だよ。タケマ=ミヅカ様からも、みんなのことはくれぐれも・・・・・と頼まれてるんだから」


 「え、タケマズカさんから?」

 「タケマ=ミヅカね」

 「云いにくいんですよ……よく、発音できますね。西方域の名前でしょ?」

 「あの人・・・は、帝都の生まれらしいけどね」

 「知り合いなんですか?」

 「まあ……ね」


 フューヴァ、ルートヴァンが目をそらせたので、それ以上は突っこまなかった。


 「ま、じゃあ、そういうことで。晩御飯が愉しみだなあ」


 本当に楽しそうに、ルートヴァンも退室する。楽しそうなのはこんなド田舎で貧乏を極めた村の晩餐ではなく、宮廷生活ではけして味わえぬこれからの「大冒険」なのは明白だった。


 その夜……。


 金に糸目をつけず奮発してるはずの料理の数々は、ここいらで人々がかろうじて生きて行ける最大の理由である天然の山芋や菊芋のような植物の地下茎を煮たものや焼いたもの、なけなしの大麦による雑穀粥、いつ作ったかも分からないような、岩みたいな塩漬けカスタ肉と山芋と野草のスープ、大ネズミの丸焼きなど、まさに救荒食のようだった。


 「久々に食うぜ、こういうの」

 フューヴァとプランタンタンが、目を丸くする。何より驚いたのは、

 「なかなかうまいよ。僕は、もう8日もここで君らを待っていたからね!」


 生まれてから最高級宮廷料理しか食べたことの無いようなルートヴァンが、さもうまそうに平らげることだった。


 「無理してるようにも見えねえでやんす」


 ただ山芋を茹でたものをムチャムチャと頬張りながら、プランタンタンが不思議そうにルートヴァンを見やった。


 「…ったく、ストラさんの周りにゃ、おかしなヤツばっかり集まってくるぜ」

 味の薄い大麦粥を木の匙でかっこんで、フューヴァがつぶやいた。


 「あっしらも含めて、でやんす」

 「ちがいねえ」

 二人して、ニヤッと笑みを浮かべる。

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