第7章「かいほう」 1-7 隠れウルゲン
人間同士の呼び方など感心どころかその区別もついていないプランタンタン、薄緑の眼を半眼にして、大柄な身体を丸めてストラへ平伏しているルートヴァンを見やった。
そのルートヴァンが平伏したまま、
「では、聖下、今後の御説明を」
「いいよ」
そこで、初めてストラがルートヴァンのほうを向いた。ルートヴァンが立ち上がり、
「フューちゃんとプランちゃんも、聞いておいてね。ぺーちゃんは……まあいいや」
フューヴァは笑ってしまった。
「えー、では、作戦を説明しますよ。目標は、聖下によるウルゲリア聖王国にいるという、聖魔王ゴルダーイの討伐です。その後は……祖父ヴァルベゲルに全てお任せください。聖王国では、ヴィヒヴァルンの者と知られたら、ちょっと面倒です。従って、我々は、ヴィヒヴァルンより亡命してきた『隠れウルゲン』ということにします」
「隠れ……?」
「なんでやんす、それ」
すました顔でウインクをし、ルートヴァン、
「ヴィヒヴァルンでは、ウルゲリアの聖女信仰は禁止されているんだけれども、地下信仰というか……かなり、裏で信者が増えているという話でね。……みんな、隠れて聖女を拝んでいるから、隠れウルゲンって呼ばれている。もちろん、密告を奨励し、見つけ次第、棄教させるか国外追放にしている……片っ端から処刑しろっていう、過激な意見も、あるけどね」
「処刑は、やりすぎでしょう。たかが、神さんを拝むくらいで」
フューヴァが、眉をひそませる。
「僕もそう思うよ。まだ、ね」
「まだ……?」
「ウルゲリアに行けば分かるよ」
「何がです?」
「どれほど、厄介な連中なのか……さ。あんなのがウジャウジャ増えたら、ヴィヒヴァルンは滅亡だ」
「…………」
つまり、ルートヴァン達為政者にとって厄介だ、という意味だ。
「まあそれで、僕らは国外追放された隠れウルゲンというわけさ。もっとも、ウルゲリアの連中だってバカじゃない。僕らを、隠れウルゲンを装った間諜だと疑う者もいるだろう。だけど、ウルゲリア信仰の詳しい部分など、僕も知らない」
「じゃあ、どうするんで? いまからみんなで勉強するんでやんすか?」
ルートヴァンは頭の回転の速いプランタンタンを満足そうに見やって、
「いやいや、新人さんということさ。僕らみんなが、ね。それで、国外追放で済んだ、と」
「なあるほど……」
「だけど、最低限の常識は知っておかないといけない。ウルゲリアの聖女伝説のね」
そうして、ルートヴァンがザッと語るには……。
約800年前、バーレン=リューズ神聖帝国初期のころ、未だ前の魔王大戦の影響の残るウルゲリアは全土が荒廃し、人心は乱れ、帝国でも再貧困地区と化していた。
そこへ、「聖女」が現れ、人々を救い始めた。魔術とも、神聖魔法だったとも云われている。
やがて必然のように聖女の周囲に人が集い、聖女を拝み、護る人々が現れ、瞬く間にウルゲリアを聖女信仰の国とした。
聖女の伝えた教えと技術により、ウルゲリアは全土に農地が広がり、今や帝国を代表する大穀倉地帯となって、人々は豊かに暮らしている。また、聖女を護る聖騎士団が、幾度となくその肥沃な大地を狙う他国の干渉を退け、帝国内戦の危機を防いでいる。神殿の結束力により、ウルゲリア国民は一致団結して、祈りと勤労に勤しんで現代に至っている。
「いいことづくめじゃねえか」
フューヴァがルートヴァンに向けて、当たり前の疑問を呈した。
「何で、ヴィヒヴァルンじゃその聖女とやらを拝むのを禁止にしてるんだ?」
「聖女しか拝めないからさ」
ルートヴァンが不敵に口元を歪め、答える。
「フューちゃん、さっき、ヴィヒヴァルンでは禁断の聖女信仰の信者を死刑にするべきという意見に、やり過ぎと云ったよね」
「たりめえだろ」
「ウルゲリアじゃあ、とっくに、聖女以外を拝む者は死刑だよ」
「ええッ!?」
流石のフューヴァも、目を丸くする。




