第7章「かいほう」 1-6 合流
「あの子供、4歳くらいに見えるだろう?」
「ええ」
「7歳だよ」
つまり、栄養失調なのである。
「こんな場所じゃあ、そうでしょうね」
フューヴァも、鼻で笑って目元を細めた。
そんなフューヴァへ頼もしそうに長し目をやり、ルートヴァン、
「せめて、自分の力で現状を打破するきっかけだけでも、与えてやろうかと思ってさ」
「そいつあ、無理でしょうし、むしろ残酷でしょう」
「そうかな?」
「そうですよ」
「でも、少なくとも君は、同じような状況からスーちゃんを得て、脱出しただろう?」
「……!」
フューヴァが息を飲み、ルートヴァンの長し目を見返した。
「運がよかったんですよ」
自嘲気味に、そう答える。
「運だって実力の内さ」
「そうですかね」
「そうさ……」
云っているうちに、宿に戻った。
宿では、馬のブラッシングを終えたプランタンタンが狭いロビーで休んでいた。
「ストラさんは?」
「さあ、部屋におりやあせんか?」
そこでプランタンタンがチラリとルートヴァンをその薄緑色の美しい瞳で見やり、
「ルーテルの旦那、すぐ、出発しやす? それとも……」
「今夜、スーちゃんに報告と、今後の打ち合わせをしたい。出発は、明日だな」
「合点でやんす。女将さん、そういうことでやんす」
「分かりましたよ」
部屋の奥から、女将の声がした。
「今夜は壮行会でやんす。できるかぎり、奮発しておくんなせえ。金は、心配いりやあせん」
「はいはい」
そうは云っても、肝心の食材がどこまで用意できるか、だ。
そこは、プランタンタンも分かっていた。食えるものがあればそれでいい。
「ところで、云われなくても分かるけど、いちおう聞いとくぜ。ペートリューのバカは、どこでなにしてやがるんだ!?」
「村中を回って酒を買いあさってたんでやんすが、ペートリューさんの1日と半分くらい(の量)しか買えないもんで、部屋で気絶してるでやんす」
案の定という感じでフューヴァが鼻で笑い、
「あほだ」
「でも、ウルゲリアだかっちゅうところまで、まだしばらくかかるんでやんしょ? どうしやす? 酒のきれたペートリューさんほど、面倒なものはありやあせん」
確かに……と、フューヴァが渋い顔となる。
「ま、ストラさんに相談しよう」
部屋へ行くと、ストラはいつも通りに窓際に立って腕を組み、閑散とした村を凝視していた。
「旦那、ルーテルさんでやんす」
ルートヴァンが部屋で片膝をつき、
「聖下、この度の遠大にして偉大なる御大業をその足下にて目撃させていただける栄誉を賜り、恐悦至極、感謝の極みにございます。このルートヴァン、全身全霊、全魔力全知識を持ちまして、微力ながら聖下の御役に立てるよう、粉骨砕身致します」
「まかせる」
ルートヴァンへ目もくれず、ストラがぶっきらぼうに云い放った。
「ハハアッッ!!」
そんなルートヴァンの大きな背中を見やって、腰に手を当てたフューヴァが、
「ストラさんのことを、スーちゃんって呼ぶそうですよ」
「いいよ」
「いいんだ」
フューヴァは、笑ってしまった。さすがストラと云うべきか。
「どういう意味でやんす?」
「知らねえよ」
「はあ」
「お前のことは、プランちゃんっていうようだぜ」
「どういう意味でやんす?」
「だから、知らねえって」
「はあ」




