第7章「かいほう」 1-5 ルートヴァン
見た感じ、いない。
(なお、本来は平原国の言語があるが、タケマ=ミヅカの魔法がまだ効いており、勝手に言葉が通じる。)
「背が高くてカオのいい、魔法使いのアンちゃんが来てないか?」
フューヴァがフロントの掃除をしている女将に向かってそう云うと、
「来てますよ。お仲間を待っていると云ってましたが、みなさんのことでしたか」
「そうだぜ。どこにいる?」
「村のガキどもに、ヴィヒヴァルンの話を聞かせてやってますよ……」
「へええ」
意外な行動に、フューヴァが目を丸くした。大国の王子で魔術師としても超絶エリートのはずだが、身分が違うにも程があるはずの、こんな辺境の子供らを相手にするとは。
(御忍びの旅だし、平民のフリをするのが、うまいんだな)
皆が身分や正体を隠す歓楽街出身のフューヴァの発想では、必然、そうなった。
フューヴァは1人で、ルートヴァンを探しに出かけた。
歩きながらザッと村を見渡し、フランベルツやヴィヒヴァルンとずいぶん様子が違うことに気づく。その2国では、どんな地方の寒村でも、ここまで貧しくはない。
(土地が悪いのか? たいへんだな、こりゃあ……)
正確には、土質が良くないというより、そもそも大国の干渉により領主すなわち国による開発を禁じられているため、灌漑施設も整備されなければ、良い肥料や(有機)農薬も回ってこないのである。そんな状況にあって、村人たちのみによる細々とした農作業だけでは収量に限界があった。まして、ヴィヒヴァルン・ウルゲリア間の交易もほとんど行われていない現状では、宿場としても発展のしようが無い。
(あ……)
廃屋に近い納屋のような建物の前で、4人の痩せた子供達を相手に、なにやら座って話しこんでいるルートヴァンを発見した。
「ルーテルさん、到着しました」
「やあ、フューちゃん、御苦労さん」
(フューちゃん?)
フューヴァが、遠慮なく眉と目元をひそめた。
(ナニ云ってんだ、コイツ……)
不思議に思ったが、元より雲の上の人物であるし、これから色々と世話になるのだろうから、華麗にスルーした。
「さっそく、出発したいんですけど」
「いいよ。こんな場所じゃ、プランちゃんも馬の世話ができないし、ペーちゃんもお酒なんか調達できないだろう」
「はあ?」
思わず声に出してしまい、フューヴァ、咳払いで取り繕いつつ、
「じゃあ、ストラさんはスーちゃんですか?」
引きつったような笑みを浮かべながら、嫌味でそう云った。が、ルートヴァンは真顔でポンと手を打ち、
「いいねえ、それ!」
弾けるような笑顔を見せたので、フューヴァは完全に引いた。
(な、なんか、よく分かんねえ宮廷の習慣でもあるんだろうな……)
そう思うことにし、無視する。
ルートヴァンが腰を上げると、
「おじちゃん、行くの?」
鼻水を垂らした4歳ほどの子供がそう云った。
「ああ」
「ありがとう、お話してくれて」
「ああ。じゃあね」
「サヨナラ」
「さようなら」
小さい手を振る子供らに笑顔で手を振り返し、ルートヴァンが歩き出す。
そんな子供らを振り返って、フューヴァ、
「ずいぶん懐いてますね。食い物でも与えたんですか?」
「まさか。こんな村で。きりがないよ」
侮蔑するように鼻で笑って、ルートヴァンが口元を歪める。フューヴァは流石だぜ、と思いつつ、
「じゃあ、どうやって?」
「好奇心に、貧富や貴賤は関係ないのさ」
「へえ……」




