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第7章「かいほう」 1-4 アルメドス平原国

 5日ほど進み、あまりに何も無いのでプランタンタンが御者台から振り返って窓越しにストラに尋ねた。


 「あとちょっとで、村があるから、たぶんそこ」

 「ちょっとてえのは、どれくらいで?」

 「2日」

 「2日もかかるんですかあ?」

 ペートリューが、酒樽の合間より顔を出して高い声を発した。


 けっきょく関所でも酒を補充できなかったので、2樽を飲みつくしかけている。


 「こんな国じゃあ、次の村でも買えるかどうか分かんねえぞ。見ろや、畑のの字もねえ。ワインにしろビールにしろ、酒を作ってるとは思えねえなあ」


 「げへぇええッッ!!」


 踏みつぶされたカエルみたいな声を発し、なんとペートリューがバッタリと気絶してしまった。


 「やれやれ……」

 舌を打ち、目を細めて雀斑そばかすだらけの顔をしかめつつ、フューヴァ、

 「ストラさん、これから行く、ウルゲリアってところは、どんなところなんです?」


 「よくわかんない」

 「ルーテルの旦那頼みですか?」

 「うん」

 「そうですか……」

 今から緊張してきて、フューヴァは大きく息をついた。


 ヴィヒヴァルンを進んでいたころは、タケマ=ミヅカの云うことも半分くらいしかピンと来ず、また結果としてタケマ=ミヅカが全てやってくれたので気楽なものだった。


 しかしタケマ=ミヅカがいなくなった今、必然、フューヴァが判断し、行動しなくてはならない場面が増えるだろう。先日の関所のように。


 正体はヴィヒヴァルンの跡取りであるルートヴァンがしばらく同行してくれるのだけが、救いと云えた。ルートヴァンであれば「エライさん」との対話や交渉も手慣れたものだろうし、ヴィヒヴァルンの目標とストラ(正確にはフューヴァ達)の目標が一致している間は、ストラを裏切らないだろう。


 そのルートヴァンが合流するまで、あと2日もあるのだ。

 (この2日間、何事も起きませんように……)

 フューヴァは胃を押さえながら、祈らざるを得なかった。

 そして、祈りは天に通じた。


 何事も起きないどころか、道が間違っているんじゃないかというほど誰ともすれ違わず、また途中から道もほとんど無くなって、完全に荒野を進んだ。


 流石のプランタンタンも不安になり、

 「旦那、ホントにこっちであってやす?」

 と、何度もストラに確認した。

 「うん」


 ストラがそう云うのなら……と、ひたすら軍馬みたいな馬を2頭、操り、2日後に荒涼とした地平線の向こうに村落らしきものが見えたときは、プランタンタンとフューヴァは思わず歓声を上げた。


 馬たちは粗食と渇きに耐え、力強く村に向けて進んだ。

 到着したのは、アンチェタルという村だった。


 我々のイメージでは、まさに西部劇に登場する荒野の中の乾ききった集落だった。


 「うわあ」

 滅多に見ない巨大な馬達を見やって、村の人々が感嘆の声を上げた。

 「こんな馬で、畑を耕したいなあ」

 素朴な農民たちが、厳しい顔つきで首を振った。

 「だけど、喰うぞ、コイツらなら」

 「たしかに……」

 飼い葉を用意しきれない、という意味だ。


 毛長やカスタ……すなわち馬や牛だからと云って、そこらの草を喰わせておけばよいというわけではない。野生種ならそれでよいかもしれないが、家畜はそうはゆかぬ。栄養不足で見る間に痩せてくるし、変なものを食べたらすぐ腹を壊す。現に、村でも一軒しか無い宿では、この2頭が充分に食べる分の牧草を用意して無かった。


 「こんなでかい・・・のが来るなんて、思ってもみなかったから……」


 宿の親父が、申し訳なさそうに云った。フューヴァ達も、困って互いに見合うだけだった。金ならあるが、現物がないのだ。どうしようもない。


 「ルーテルの旦那と合流したら、すぐ出立いたしやしょう」

 水をがぶ飲みする馬たちの世話をしながら、プランタンタンが眉を下げて云った。

 「その、ルーテルさんは、どこだ?」

 フューヴァが、宿を確認する。

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