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第7章「かいほう」 1-1 関所にて

第7章「かいほう」



 1


 ストラ達は10日ほどでヴィヒヴァルン国境を越え、隣国の平原地帯に出る予定だったが、行く先々の村やら街やらで歓待と足止めを食らい、ほ1か月を要してようやく国境に到着した。


 「やっと解放されるぜ」

 フューヴァが長い溜息と共に、関所に入る。


 とにかく国王が新魔王ストラに帰依し国の命運を託したという情報が風のように国の隅々まで行き渡り、行く村やら街やらの全てがお祭り騒ぎなのである。なにせ各村長、町長、郡代、市長に至るまで為政者は全てヴァルンテーゼ魔術院のOBであり、一瞬で情報が行き渡っている。その頂点に立つシラールは彼ら魔術院卒業生にとって神にも等しく、そのシラールが国王と共に新魔王ストラに全てを賭けたのだから、新魔王ストラも神にも等しい……いや、ある意味神以上・・・の存在なのだ。


 従って人々は長蛇の列を成しひっきりなしに拝みに来るわ、供物は山のように届けられるわ、寄進は集まるわ、為政者は少しでも滞在してもらおうと歓待の限りを尽くすわで、旅にならぬ。あまりに出立が遅いと、次に訪れる予定の街から「独り占めするな」と苦情クレームが来たほどだ。


 最初は驚き、喜んでいたプランタンタンとフューヴァも、3か所目には辟易して、なんとか先に進もうとしたが無駄だった。1人で大酒を浴びてご満悦なのは、ペートリューだけだった。


 ストラは、どこでも「神像」の役割に徹し、人々から厚い崇敬を受け続けた。


 というわけで、関所に到達したころには暑さもひと段落し、夏の日差しに秋風が交じるようになっていた。


 「参ったでやんすねえ」


 「食いすぎて、太っちまったよ。せっかく新調してもらったのに、ハラがキツイぜ……」


 そう云いながら2人が出国手続きのため建物に入った途端、関所を預かる壮年の代官が正装してすっ飛んできた。折れんばかりに腰を曲げ、


 「聖下! 聖下!! ようこそリズヴェルの関所に!! どうか、どうか奥で御休息に!!」


 またか、と眉をひそめてフューヴァ、

 「いや、もう先に進みたいんですけど……」


 「そうおっしゃらずに! どうか! 後生です、後生でございます!! ここで素通りされては、私めの立場がああ……!!」


 代官が、涙目でフューヴァを伏し拝む。

 「アンタの立場なんか、知ったこっちゃないぜ!」


 と、思うのだが、本当にそう云ったらショックで気絶した村長までいたので、フューヴァはグッとこらえた。そのまま自殺でもされようものなら、これも後味が悪い。結局、フューヴァも庶民というか、下層階級の最たるものだったので、どうにも支配者側の機微が分からぬ。


 (ルーテルさん、早く合流してほしいぜ……まったく)

 深い嘆息と共に、馬車へ戻って、

 「すみません、ストラさん、ちょっと……」

 「いいよ」


 三次元探査ですべて把握しているストラが、装甲荷馬車の後ろからヒョイと現れる。


 関所に入ろうとするや、中から代官を筆頭に主だった役人と兵長が全員現れ、総勢21人が片膝をついて平伏。


 「おそっ、畏れなが!! せせっ、聖下におかれみゃじゅブッ!」


 緊張のあまり口が回らず、代官がいきなりかんでしまって、失態のショックで気絶し、倒れ伏してしまった。


 「あっちゃあ」


 とフューヴァが息を飲んでいると、少し後ろに控えていた30歳ほどの小太りで髪の薄い副代官がやおら全身ガクガクと震えだし、瀧のように汗を流しながら、


 「おおお! おそッ!! オフウ! おふそれながら! も、もうしあげ……!! 何卒!! なにいとぞッフウ!! おッ……奥で!! 御休息ねがッう! ふう! 御ねがいたてまつりィ……ッヒイイ!!!! おフィッ! ゥウ!!」


 青息吐息と紅潮で、心臓麻痺を起こすのではないかという顔色だった。

 見ていられず、フューヴァが救いの手を差し伸べようとしたが、

 「いいよ」

 ストラがそのまま、1人でスタスタと関所に入ってしまった。


 一瞬、唖然とストラの後姿を凝視した副代官、

 「……あ、あああありがたきしゃああわしぇえええ!!!!」

 そう叫んで、ストラの後ろに続いた。

 あわてて、全員も副代官に続く。

 フューヴァとプランタンタンの前に、気絶して倒れている代官だけが残された。

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