第6章「(ま)おうさま」 5-14 賽は投げられた
タケマ=ミヅカの苦笑に、ルートヴァンも顔を綻ばせる。何にせよ、ルートヴァンごときではどうすることもできぬ。せいぜい、彼らの先祖が、全魔力を世界を支えるために使用し、無防備となった「要」を護るために神聖帝国を作ったのと同様のことを行うくらいだ。
「しかし、大魔神様がそうおっしゃられるということは、ストラ様には、何かしらの見込みが?」
「ストラはな、魔力の無い世界から流れついたらしい」
「魔力の……!?」
「大河の側にあるのも、悪いことばかりではない。そのおかげで、この世界は濃厚な魔力に満ち満ち、身共を含め、この世界の者どもはその恩恵に浴しておる」
「いかさま」
「ストラには、それが無い。それなのに、あの力よ。身共は確信したわ。この世界の理で動かぬあやつこそ、この世界が自己防衛のために自ら呼び寄せた……のだとな。ならば、我らはそれを利用するだけよ」
「そ、それは、しかし……ストラ様は、どう思われましょう」
「それは知らぬわ。ストラがその役を断ったら、この世は跡形もなく滅びるだけよ」
「…………」
「だから、ルーテル、お主の責は重いぞ」
「やっぱり、私ですかあ!?」
ルートヴァンが、笑いながらも泣きそうな声を発する。
「なんとか、ストラをその役につけよ! 頼んだぞ!!」
タケマ=ミヅカがそう残して、掻き消えた。
「あッ……!」
クソでかいため息と共に、ルートヴァンが立ち上がる。
その様子を、広域三次元探査で、ストラが確認していた。
「……さすがに、作戦本部の承認がいるかな……」
世界の運命や如何に。
翌日。
宝飾的に豪華というより、戦場で物資運搬用に使うような異様に頑丈な馬車が用意され、これも軍馬に近い毛長馬が二頭立てで引くその御者台にポツンとプランタンタンが座っている。近衛兵200が先導する中、王宮から出て、王都の大通りを進んだ。楽隊が勇ましい音楽を奏でながら後ろをついて歩いて、都民が万歳三唱で送り出し、魔術のバルーンがあがり、花火まで鳴ったので、さすがにプランタンタンが恥ずかしくて真っ赤になった。
キャンピングカーめいている頑丈な荷台は窓付きのコンテナ状で、物資や人員を輸送できる頑丈な軽装甲馬車だ。
そこに野外生活用物資の他、ストラとフューヴァ、それに酒場へ卸す様な大樽が二つと、その合間で既に出来上がっているペートリューがいた。敷物を敷き、床に直に座っている。
「そういや、ルーテルの旦那は、いつ合流するんですか?」
ルートヴァンは、異次元魔王が世界各地にいる魔王討伐の旅に出ると同時に、帝都へ留学に行くと発表された。
名も、限られたものだけが知る幼名のルーテルに改め、あとで合流する。
つまり、ルートヴァンがストラ達に合流し、旅を続けるのは、内密なのだ。
お忍びというわけである。
もちろん、この機会にお近づきになろうという、まだ玉の輿を諦めない女魔術師達が後からついて歩くのを防ぐためである。
「ヴィヒヴァルンを出たら、すぐ加わるみたい」
「へえ……」
色街で、単なる色男、金持ち、権力者など嫌というほど見てきたフューヴァは、ルートヴァンも単なるお偉いさんによるお目付としか思っていなかった。
「アシを引っ張んなきゃいいですけどね。タケマズカさんみたいに、役に立つんですか」
「よくわかんない」
「しっかし、大仰だなあ……」
窓からチラッと外を見て、人々の壮大な見送りに顔をしかめた。
「何を企んでいるのやら……」
フューヴァは、国王以下、全員を信用していなかった。
(どうせ、ストラさんをうまいように使おうってハラなんだろうが……ヘッ、そりゃこっちが先なんだっつーの……! そう、想い通りにャさせねえぜ……)
フューヴァの眼が、鈍い光を放った。
同じく、パレードのような出発を、大テラスからヴァルベゲルとシラールも見つめている。
「賽は投げられた……か」
「誰の言葉でしたかな!?」
「忘れたよ……」
ヴァルベゲルが踵を返し、執務室へ戻った。




