第6章「(ま)おうさま」 5-13 もっと強力な要
深夜を過ぎ、人々もストラを拝みながら少しずつ辞して、最後にヴァルベゲルが、
「さあ、聖下もお疲れだ、そろそろ、場を締めたいと思う」
と閉会を宣言。お開きとなった。
壇から降りたストラに、ヴァルベゲルが近づき、
「心の底より深甚に感謝申し上げます、聖下。よくもまあ、あのように微動だにせず……御見事で御座りまする」
「うん」
何事もなく、ストラはそう答えると、部屋に戻った。
部屋では、3人がぐっすりと眠りこけていた。
ストラはそのまま大きな窓際に立ち、腕を組んで、どこともなく外を眺めながら朝まで過ごした。
その、深夜……。
部屋で旅支度を整えているルートヴァンに、訪問者がいた。
その魔力の動きで、もう相手が誰か分かる。
「タケマ=ミヅカ様……」
「久しい喃、ル-テル」
「お久しぶりに御座りまする」
薄明りの照明魔法の中、ルートヴァンは、ストラにするように深く片膝をつき、平伏した。
「この姿の時に、左様なことは無用じゃ」
「そうは参りませぬ」
「面をあげよ」
「ハハッ……」
ルートヴァンが顔を上げた。
その顔に、悪い笑みが浮かび、影を作っている。
それを見て、タケマ=ミヅカも同じような笑みを返した。
「何か、云いたげだな」
「はい。まさか、大魔神様が御自らストラ様の御案内役をされたとは……」
「思うところあって喃」
「御自らの御役目を、ストラ様に……というのは、まことで?」
「そのことよ」
「いったい、どうして……」
「遠からず、身共では支えきれなくなるからよ」
ルートヴァンの顔から、笑みが消える。
「まさか」
「その、まさかよ」
タケマ=ミヅカも、厳しい表情となった。
「し、しかし、3つもの漆黒のシンバルベリルと合魔魂を行い、3柱の神名と神威と言語を絶する魔力を持つ御方が、たった1000年で……?」
「逆よ。身共をもってしても、たった1000年しか持たんのだ」
「……!!」
云っている意味を瞬時の悟り、ルートヴァンが驚愕に固まった。
「正確には、急激に持たなくなってきた……というのが、正しいがな」
「な、何か、異変が?」
「……」
タケマ=ミヅカが片膝で控えるルートヴァンより視線を外し、広い部屋の片隅の闇へ目をやった。
「この世界、この太陽系は、巨大にして急速な大河の流れに引き寄せられる小舟にも等しい。人知を超える、まさに神の意思による膨大な魔力の流れが、次元と宇宙を貫いて流れているそのすぐ側に、この世界は位置しておる。それは、前に云うた通りよ」
「はい」
「身共の以前……太古の昔より、世界と太陽系が少しずつその流れに引き寄せられ……やがて圧倒的な魔力に呑みこまれ、粉微塵となって消え去るのを、防いでいる者達がいた」
「はい」
「身共はたまたま……3つの漆黒のシンバルベリルを駆使し、当時の魔王やら生き神やら大勇者やらを倒して世界を平らげ、合魔魂により世界の要として鎮座し、この世界をその巨大な流れに吸いこまれるのを防ぎ……いや、少しでも遅らせようとしていた」
「それが……」
「左様、もう限界だ」
自嘲の笑みに顔をゆがめ、タケマ=ミヅカが再びルートヴァンを見やった。
「人知を超える力により、魔力の流れが一気に加速してきた。身共ごときでは、あと100年と持たん。もっと強力な要が必要だ」
「そ、それがストラ様……と!」
「やってみぬと分からんが、な」
「左様で……」




