第6章「(ま)おうさま」 5-11 世界がストラを呼んだ理由
次から次に出てくる王族貴族が着るドレスの数々に、さすがにフューヴァが声を出す。
「如何なさいましたか。この衣装に御不満でも?」
「そうじゃありません……云っちゃあなんですが、アタシらは、いくらストラさんの御付きだからって、元娼婦に元奴隷……」
そこでほとんど初めて目の当たりにする、前髪の上がったペートリューの顔を見やり、
「こいつは、酒浸りの人間のクズです」
「ひどっ」
思わず声を発したペートリューを無視してフューヴァ
「こんな……こんな格好させられても、歩けやしないし、ましてメシなんか喰えません。王様方が喰うような喰い方も知らねえ。勘弁してください。恥をかくだけなら、部屋で待ってます。それにコイツは、王様方の前で飲みつぶれるにきまってる!」
ペートリューは、誤魔化しの笑いを浮かべるだけで、否定しなかった。
「左様な御心配には及びませぬ……」
執事長がそう云ってくれるが、そう云う立場だ。フューヴァはそれを理解しており、
「ストラさん、何とか……」
もう、窓際でずっと外を凝視していたストラが、すぐそばにいた。無言で右手を軽く上げるや、執事長とメイド達が再び自動人形かそういう振付の舞踊めいていっせいに腰を低くして下がり、中腰で片膝をついた。
「私達は、もう出発します。晩餐会やら、舞踏会やらは無用です。行き先と任務だけ、教えてください」
「畏れながら、そうは参りませぬ、聖下」
そう声がして、執事長とメイド達がさらに中腰のまま下がり、二列に分かれて壁際に揃い、直立不動となる。
現れたのは、ヴァルベゲルとシラール、それに、王の嫡孫にしてシラールの愛弟子、ルートヴァン公だった。
着替えの途中でグダグダなかっこうの3人がどうしようもなく、ペコペコ頭だけ下げながら後ろに下がる。その途中でドレスの裾を踏み、ペートリューがひっくり返った。
ストラが前に出て、王を筆頭に3人が片膝をついた。同時に、執事長とメイド達も壁際に片膝をついて平伏する。
「聖下、御願い奉ります。何卒聖下だけでも、我らが供物を供えさせて頂きたく……」
「私だけならかまいません」
「有難き幸せ……!!」
「で、私達は、次にどこで何をすれば?」
「ハハアッ……! それにつきましては、このシラールめより、我らが願いを、御聞き届け頂きたく……」
「いいよ」
そこでシラールが真ん丸の頭をあげ、
「聖下!! ヴィヒヴァルンが誇るヴァルンテーゼ魔術院が院長、ベゲルト・フォルン・シラールにて御座ります。畏れながら聖下におかれましては、今この世界に七柱いるという聖下以外の全ての魔王を御打ち倒しになられ、かつてそのようにして今や世界を支える要となっている大暗黒神バーレナードビュラーヴァルにして大魔神メシャルナーにしてタケミナカトル大明神に代わり、新たなる世界の要となって頂きまする……!!」
「理由は?」
「ハハッ!! 畏れながら、それが、この世界が聖下を御呼び奉ったために御座りまする……!!」
「世界が……私を……呼んだ……?」
「ハッ!! 畏れながら、私めがごとき人の身には、到底理解の及ぶところではありませぬゆえ、御許し願い奉りまするが……この世界は、全宇宙、全次元にあって、格別に微妙な場所に位置しておるとかで……その平衡を保つためには……強大なる要が必要……と」
(……この『世界』が……次元バランスの悪い位置にある……? そんなことを、この次元の住人に分かるはずが……)
そこで、ストラ、ピンとくる。
(そうか……そのナントカっていう『要』を勤めている人も……かつて……)
自分の同レベルかそれ以上の文明……少なくとも、次元航行デヴァイスを保持する世界からの漂流者なのだろう。そうでなくば、惑星の宇宙的位置の空間バランス、あるいは世界の次元位置バランスなど、計測できようはずがない。
「……でも、どうしてその人……いいえ、貴方たちにとっては、神様……その神様は、要とやらを、私に……?」
「ハッ!! 畏れながら、分かりませぬ!!」
「ふうん……」
ストラが、義眼めいた鋼色の眼で、シラールを凝視した。シラールは不敵な面構えを崩さなかったが、隣に控えるヴァルベゲルは緊張と不安で柄にもなく倒れそうだった。




