第6章「(ま)おうさま」 5-10 風呂と着替え
無言で、全員が顔を上げた。
「今後、全て、この3人を通して」
「畏まりまして御座りまする!!」
再び、全員が平伏した。
プランタンタンは薄緑の眼が飛び出んばかりに見開かれ、衝撃と歓喜に震えだした。フューヴァはあまりのことに、魂が抜けたように立ち尽くした。ペートリューは気絶して倒れそうになり、あわててフューヴァが支えた。
「重っ……!」
その重みに、フューヴァは現実をかみしめた。
それから王座の間に入り、ストラは王座のさらに上に特別に設えられた神坐に座らされ、主だった王国の人々百余人の拝謁兼礼拝を受けた。3人も神坐の下で待機させられたが、いったん目を覚ましたペートリューはやはり途中で気絶し、係の者に運ばれた。
2時間ほどでその儀式は終わり、晩餐会までしばし休憩となった。
普段は使われない、帝都より皇帝皇族が行幸啓した時のみ使用される王宮でも最高級の部屋に通される。ストラは巨大な窓ガラスの片隅に腕を組んで佇み、どことも知れぬ遠くを眺めていたが、3人はどんな高級宿のベッドよりも高級なソファに座っているうちに緊張が解けて眠ってしまっていた。
「御休みのところ失礼いたします、皆様方、どうぞ晩餐に備え、御身を御清めになり御召物を御合わせ頂きたく」
絵に描いたような、背筋に鋼が入っているかのような姿勢の執事長と共に、10数人のメイドが現れる。
「えっ?」
話しかけられたフューヴァが目を覚まし、
「さ、どうぞ、こちらに……」
自動人形のように動くメイド達が、優雅かつ洗練、そして有無を云わせぬ圧力で、フューヴァを誘導した。
「エ? えっ……いや、アタシたちは……」
「そうは参りませぬ。さ、プランタンタン様、ペートリュー様も……御目覚めくださいまし」
そう云うも、けして執事長は手を触れぬ。起きるまで、優しく声をかけるだけである。
「おい、プランタンタン、ペートリュー、起きろ! 風呂と着替えだってよ!!」
気の短いフューヴァがつきあいきれず、二人を起こす。フューヴァの声に、プランタンタンが目を覚ました。そして、半分寝ぼけたまま、同じようにメイド達に子供のように誘導されて、浴室へ消えた。
ペートリューは、まだ爆睡していた。
「ペートリュー様、御目覚めくださいまし」
渋い端整な声で、執事長が控えの姿勢のまま、ずっとそう声をかける。
「ペートリュー! ……あ、酒でも嗅がせてやってください! すぐ起きますから!」
「畏まりまして御座ります」
フューヴァを浴室へ見送り、執事長がサッと左手を上げると、メイド達が超絶に高級なスパーリングワインと、水晶を削り出して作ったグラスを持ってきた。超一流ソムリエも真っ青の所作で執事長が栓を抜き、薄黄金色に泡だつ薫り高い液体を注いだ。
それを銀盆に乗せ、執事長、
「ペートリュー様、御目覚めの御飲み物を御用意致しました。どうぞ、御召し上がりになられますよう……」
その芳醇かつ鮮烈、肺の隅々にまで幸福で満たす至福の薫りに、もう無意識でペートリューが飛び上がった。
「お、お酒……おさっ……すっごく……すっごくイイ匂いですぅ!!」
「どうぞ」
差し出された盆に乗る水晶グラスを眼にも止まらぬ速さでとり、一瞬で飲み干す。
「はぅう……!!!!」
あまりの味と薫りに、魂が抜けたようになってペートリュー、喜悦に打ち震えた。
「御代わりを」
「は……はい!」
執事長が注ぐまま、ペートリューは一瓶を一気に空けてしまった。
「まだ、御座りますが、御開け致しましょうか?」
「おねがっ……!!」
ペートリューはしかし、そこで、グラスを銀盆に置いた。
「いいえ、もうけっこうです。本当にありがとうございました」
欲望に任せて飲み散らかすレベルの酒ではない。それを、充分に味わった。
3人は、煌めきで眼もつぶれんばかりの浴室で、魔術も駆使したメイド達(なんと、執事長も含め、メイド達は全員が凄腕の魔術師である)に頭の先から足の先までビカビカに磨かれ、さらに髪も整えられ、さらに化粧と衣装合わせに入った。が、
「ちょ……ちょっと待ってください!」




