第6章「(ま)おうさま」 5-8 魔法の乗物
同じような体格のタケマ=ミヅカに妙な親近感を覚えていたプランタンタンが、眉を下げてそう懇願するが、
「いやいや……これからは、身共より役に立つ者が、しばらく異次元魔王の供をする。身共は、そやつと打ち合わせをしておくゆえ、ここで別れる。皆は、兵について王宮へ行くがよい。では、さらばだ」
云うが、タケマ=ミヅカはフイといなくなってしまった。
「あ……タケマズカさん!」
フューヴァが叫ぶも、消えたようにいなくなった。
(疑似物質拡散を確認……エネルギー体の消失を確認……完全に消滅した……結局、正体は不明)
ストラが、タケマ=ミヅカのいた場所を三次元探査したが、痕跡すら無かった。空間転移とかではなく、本当に消えた。
「チクショウ、礼も云わせないで行っちまうなんて……水くせえな」
フューヴァが涙をぬぐった。
「行こう」
ストラが、歩き出した。
3人は名残を惜しみながらも、馬を引いてそれに続いた。
街道を凱旋門に向けて歩いていると、次第に歩く人が少なくなり、近衛兵の前まで来ると一行だけになった。
近衛軍5部隊の各隊長と、近衛将軍、副将軍2名の8人が前に出て、剣を掲げて最敬礼し、
「畏れながら申し上げます!! 異次元魔王ストラ聖下に御座りましょうや!!」
「うん」
軽く右手をあげ、無表情でストラが答えた。
とたん、全近衛兵が片膝をつき、ストラへ平伏したものだから、反射的に大通りの何百人もの野次馬たちも片膝をついて平伏した。
「聖下!! 王宮にて、国王陛下が御待ち申し上げております!! 何卒、御登城の栄誉を賜りますよう、平に、平に御願い奉ります!!」
さしもの近衛将軍も、声が震えていた。
「いいよ」
「有難き幸せ!!」
そして将軍が立ち上がり、指図をすると、国王が乗るものより豪奢な特製の馬車が現れたので、野次馬達も度肝を抜かれた。
というのも、浮遊魔術により、まるで電磁リニア式の小型バスめいて、宮殿の一室がそのまま出現したような物体が登場したからだ。
(な……なんだ、ありゃ……!)
人々は一様に感嘆し、逆に恐怖もした。国王の専用馬車ですら、馬が引き車輪で走る。あんな、魔法の乗り物など、見たことも聞いたことも無い。
(あ、あんなのを王様が作って出迎えるなんて……この御方は、何者なのか……!?)
(ただの冒険者に見えるが……!)
(魔王……魔王様と云ったか……!?)
平伏しながらも眼を上げ、チラチラとストラを見やる。
ストラは何事もなく専用馬車……いや、もはや馬車とも云えぬ「魔法の乗物」に入り、プランタンタン達も馬を近衛兵に預け、おっかなびっくりそれに続いた。
「ウヘェ……」
眼もくらむばかりに金銀財宝で飾られた部屋の中に、3人はむしろ引いた。
ストラだけが、いつもの無表情で席の真ん中に座った。
本当に次元潜航宇宙船のドアのように自動で音もなく二重扉が閉まり、密閉される。幾重にも近衛兵に護られた部屋が、浮遊したまま静かに動きはじめた。
あまりに不思議な感覚に、フューヴァは窓の外を見る余裕もなく、呆然としていた。プランタンタンだけがキョロキョロと詳細に観察し、大きな窓の外にも目をやる。大通りに集まっていた人々が歓声を上げるでもなく、部屋が通ると同時に人形みたいに片膝をついて平伏する様に、鳥肌が立った。
ふと見やると、ペートリューが荷物から出した水筒を3本、一気飲みしていた。足りないようでソワソワしながら周囲を見やるが、残りの酒は馬に括っている小樽だ。いまは無い。
王宮に着くまで、30分ほどだったが、何時間にも感じられた。
「異次元魔王様、御到ちゃあああーーーーーーッッく!!!!」
門を通り、王宮の前庭で部屋が止まるや、15人もの長トランペット隊が壮大かつ複雑な音形のファンファーレを奏し、4人を歓迎する。1人をソロとし、14人が最大で8声部を吹き分け、中には強烈な不協和音も交じっていたため、誰がこんな(こんな世界のこの時代にしては)前衛的な曲を作曲したのかと、ストラは感心した。
吹奏が終わると自動でドアが開き、階段まで自動で現れる。ストラを先頭に4人が部屋から出ると、既に、ヴィヒヴァルン王を筆頭に王妃王族、シラールと高位魔術師、諸大臣が庭に居並んでいた。




