第6章「(ま)おうさま」 5-7 決着
かと云って、合魔魂をもってしても、結晶が数十年しか持たない。
それほどの魔力量なのである。
本来であれば、まさに高位高級魔族でなくては、赤や黒のシンバルベリルは扱えないのだ。
よって、合魔魂も代々の祖父から孫へ、隔世で引き継がれている。
すなわち、ヴァルベゲルの父親も合魔魂となり、王位は子のヴァルベゲルが祖父より引き継いだ。そして、ヴァルベゲルの長男フィデリオスが合魔魂を祖父より引継ぎ、その子であるルートヴァンにいずれヴァルベゲルより王位は引き継がれる。さらに、将来ルートヴァンに王太子(男子に限らない)が生まれた際には……合魔魂となる運命を、生まれながらに背負わされているのである。
「これを、呪われし運命と云わずに、何というのか!」
ヴァルベゲルが、変わり果てた我が子に取りすがり、嗚咽を漏らした。
そんな老父を、およそ二十数年前、人知を超えた魔力を有した結晶体と一体となったフィデリオスが、静かに見つめている。
次元穴の中では、ストラとプラコーフィレスの戦いの決着がつこうとしていた。
ストラの中和攻撃により次元陥没はほとんど修復され、ヘーデラ宿は時空の揺らぎから解放された。
「もう、大丈夫だろう」
タケマ=ミヅカが結界を解き、代官所の前に戻った。
建物があった場所は更地のようになっており、微かに基礎部分が残っている。人間は、誰もいない。
「ス、ストラさんは……!?」
酒の心配もせずに、ペートリューが周囲を見渡した。
「そろそろ、現れると思うが……」
タケマ=ミヅカも周囲を確認する。プランタンタンとフューヴァも、無言でキョロキョロしていた。
「あっ、あれは……!」
プランタンタンの声に、一同がその方向へ目を向けた。
空中に、棺桶のような姿の、薄黄色く光る巨大な結晶が浮かんでいる。よくよく見れば、その中に、眠っているような姿のプラコーフィレスがいた。まるで琥珀に閉じこめられた太古の昆虫のようでもあるし、ホログラムのように角度によっては消えてしまう。また、結晶そのものがプラコーフィレスの姿に彫刻されているようにも見える。
その結晶に、大きなヒビが入った。
そして、四つほどの大小の破片に割れて、地面に落ちた。
それはもう、安物の人口水晶のように茶色く濁り、何の力も無く、ただの無機質としてそこにあった。プラコーフィレスの姿も、かき消えてしまっている。
(あんな即席の合魔魂では、こうなることは分かりきっておった……)
それでも、行うとプラコーフィレスは決断したのだ。
それしか、ストラを倒す方法は無いと判断して。
「…………」
タケマ=ミヅカが、祈るように眼をつむった。
「ストラの旦那あ!」
プランタンタンが真っ先に発見し、駆け寄った。ペートリューとフューヴァも、それに続く。
「旦那あ、御無事で……!」
「うん」
「ストラさん、聖騎士とやらは……?」
「みんな消えた」
「あ、あのっ、あの、あ、あ、あの……あの、まりょ、まりょっく……!」
「落ち着けや!」
フューヴァが、ペートリューへワインの水筒を渡す。水を飲むより早く一気飲みし、
「ストラさん、あ、あの魔力の塊は……いったい……!?」
「よくわかんない」
その光景を見やって、タケマ=ミヅカが苦笑した。
五人は、翌日の昼前に、王都へ入った。
大通りに、約700年前、帝国最初の戦国時代のころに建てられた巨大な凱旋門があった。
ヴィヒヴァルンは当時より帝国を支える英雄の国であり、皇帝の輩出権を得た6内王国の1つだった。
凱旋門の前に180名もの近衛兵(みな、凄腕の魔法戦士である)がズラリと並んでおり、都民や旅人が何事かと野次馬に集まっていた。
「え、もしかして、アタシら……っちゅうか、ストラさんを出迎えにそろってんの?」
フューヴァが圧倒されつつ、驚いてそうつぶやいた。
「そういうことよ」
タケマ=ミヅカがそう云い、
「さて、身共の役目はここまでだ。案内役だからな」
「え? タケミズカさん、どっか行くんでやんすか?」
「ふふ……また、どこかで会う機もあろう」
「そんなこと云わねえで……これからも、いっしょに旅を続けておくんなせえ」




