第6章「(ま)おうさま」 5-3 聖魔転想
「なぜ、その名を知っているのかという顔つきだな……クク……まあ良いわ。新人魔王を退治せんと挑んできた自称勇者の身の程知らず供は、いまのところ全戦全敗よ。己らも、無駄な戦いをするか? あまり勧めんが喃」
目を細めてニヤニヤ笑うタケマ=ミヅカに、しかしルテロークは感情を乱さなかった。
「我らの望むはただ一つだ」
「なんだ?」
「新たなる魔王……ヴィヒヴァルンに組せず、我らに御味方頂きたい」
しかし、タケマ=ミヅカはそれを一蹴。
「ばかをぬかせ。ウルゲリアには、既に聖魔王がおるではないか。それに異次元魔王は、これより七人全ての魔王を倒し……世界を変えることになる!」
「え?」
フューヴァが、初耳の情報に眉を潜めた。
「タ……タケマズカさん、な、何の話ですか?」
「ストラが、世界を征服するという話よ!」
「じゃあいいです。その通りですから」
フューヴァが、聖騎士たちに向き直った。後ろで、プランタンタンとペートリューも、うなずき合う。
「では……私どもは、魔王ストラへ勝負を挑むことになります」
素早く四人の聖騎士が展開し、代官所の前で一行を取り囲んだ。
「おい! こんな場所でやり合うのか!? 街道がすぐ近くだぞ! 見ろよ、あの旅人の数を!」
フューヴァが指をさして怒鳴った。しかし、ルテロークは、
「異教徒など、知ったことではない」
「ハア!?」
驚くフューヴァをよそに、タケマ=ミヅカが笑った。
「ククッ……これが神狂いの本性よ。ここはウルゲリアではない。ヴィヒヴァルンぞ。他人の国に来て、その云いざま。はてさて、ヴィヒヴァルン王もその扱いに苦慮するというもの」
「黙れ、異土蛮人めが。貴様、何の権限があって我らが神を侮辱するか?」
「誰も貴様らの神を侮辱などしておらぬわ。そう聴こえたのなら、貴様らの心に疾しいところがあるからよ」
「なにを……!!」
ルテロークを含め、五人の目つきが段々変わってくる。
「さてさて……戦うのは、身共ではないわ。ストラよ、適当に相手をせよ。ただし、街道を行き来する人々へ、あまり被害を与えるな」
タケマ=ミヅカがそう云い、フューヴァ達三人や馬を率いてその包囲から出ようとするが、聖騎士二人が立ち塞がった。
「な……なんのつもりだ、手前ら!」
フューヴァが怒鳴りつけたが、
「ウルゲンの御聖女に帰依するなら助けてやる」
「ハアアア!?」
タケマ=ミヅカが、苦笑した。
「貴様らこそ、聖魔王など立脚せずに、異次元魔王に帰依すれば、命だけは助けてやるぞ」
「黙れ、黙れ!! 黙らんか!!」
ルテロークの形相が、まるで別人のようになった。目をむき、顔をしかめて、いまにも泡を噴きそうだ。
「もういい! 魔王ごと、聖魔転想にかけてくれるわ!!」
ルテロークのその言葉で、いっせいに四人の聖騎士が呪文というか、経というか、聖典の一節というか……とにかく意味不明の言語を、延々と繰り出し始める。
「す……凄い量の神聖魔力が集まってます!」
「聖魔王より供与されている……と云えば、聴こえが良いが……その実は、毟り取っておるのよ」
「な……なにをですか?」
「魔力を、だ」
そこで、それまで黙っていたストラが、
「警告! 魔力子の流動値が異常。この者たちの他にも、魔力子を大量放出し、かつ全体を操作する存在を確認。シンバルベリル使用の可能性大。大規模次元干渉を確認。次元攻撃の可能性大。タケマ=ミヅカさん、三人と二頭の保護をお願いします!」
「なにっ……」
タケマ=ミヅカもそう答えるや、魔力の防護壁を展開。自身を含め、三人と馬を囲った。
同時に、逃すまいとルテロークが呪文の圧を高めたが、タケマ=ミヅカは間一髪、次元窓を展開し、聖魔転想の結界より逃れた。
(クソッ……あのチビ女め、ただ者ではないぞ! ……だが、魔王は捕らえた!)




