第6章「(ま)おうさま」 5-2 聖騎士
アチェレンが、揉み手に滝汗で一行を誘う。この者らにとっても、別に本気でストラをもてなそうというのではない。ちょっとでも寄れば、それで良いのだ。「寄ったという事実」が必要なだけである。
「どうします、ストラさん」
苦虫をかみ、フューヴァがストラに尋ねた。
「代官所の中に、変質魔力子……少し変わった高魔力を含有する戦闘員が五名、待機中。我々を奇襲する模様」
「え?」
意味が分からず、フューヴァが呆けた顔を見せる。プランタンタンも同じだ。しかし、酒樽を積んだ馬を大事そうに引いていたペートリューが、
「こっ、この魔力は……神聖魔法です! ウルゲリアの聖騎士がいるのでは!?」
フューヴァとプランタンタンは、まだ意味が分からない。仕方なく、タケマ=ミヅカを見やった。
「刺客と云う事よ。己ら、金か? それとも、いつの間にやらウルゲンの御聖女信仰に帰依したか? ヴィヒヴァルンでは、ウルゲリア信仰は禁止のはずだが」
「アヒィ! イ……ッ、その……!!」
アチェレン達が、さらに汗をかく。
「お、お助け! 聖騎士様!」
アチェレン、代官所の扉にすがり、バンバンと戸を叩いた。
ゆっくりと、ドアが開く。
「せ、聖騎士様!」
「下がっていなさい」
アチェレン連、犬のように建物の影まで下がった。
「……」
現れたのは、冒険者ではあるのだが、その身なりは、これまでに出会ったどの自称勇者より良かった。剣や軽鎧を含めて騎士装備だが、法衣に近い装束に身を包み、まるで布教の旅をする修道者のようだった。
それが、男女合わせて五人、代官所から現れる。男が四人、女が一人だった。
隊長と思わしき一人……すなわち、勇者が、五人の中心にいる。
「魔王ストラなる者は……どなたかな?」
「…………」
タケマ=ミヅカに尻を叩かれ、フューヴァが、
「お、おい、なんだ、偉そうに! そっちが先に名乗りやがれ、騙し打ちなんざしようとしやがって! ストラさんにかかっちゃあ、そんな浅知恵の不意打ちなんざ通用しねえんだよ!」
と、すました顔……を通り越して、冷笑を浮かべて一同、フューヴァを憐れむように見つめる。その視線にカチンときて、
「なんだ、その眼は……手前ら、ふざけやがって……!!」
「フん……竜の威を借るゴミムシにしては道理。では名乗ろう」
真ん中のリーダーが、左右の四人を両手で指し示しながら、
「私はウルゲリアの聖騎士にして修道騎士、聖法務官、司祭長、そして勇者ルテローク。こちらは同じく聖騎士ヤッツアと、聖騎士リョストスキ」
向かって左側の背の高い若者と、中背の壮年男性が礼をした。
「こちらは、同じく聖騎士ヤーゼン、聖騎士コルラップ」
右側の若い女性と、やはり新人のような、最も若く年下の青年が一礼する。
「総勢五人で、布教を含めた修行と……いつかは魔王退治のため、各国を回っております」
みな、日に焼けた薄褐色肌に青や茶の眼をし、髪も茶金髪、濃い茶、そして黒だった。
ウルゲリア諸民族だ。フューヴァも鼻を鳴らし、
「魔王ストラ様は、こちらだ。アタシら従者の名前なんか聞きたくもねえだろうから、名乗らねえぜ。ただ、こちらは、案内役の魔法戦士、タケミズさんだ」
「タケマ=ミヅカな」
「え……前から思ってたんですけど、それ、どこの発音なんです?」
「いいから、下がっておれ。こやつら、少し、様子が違うぞ……」
背の低い、見た目が少女のような女戦士が前に出たが、その物腰と雰囲気でただ者ではないと看破したルテローク、うすら笑いを消し、
「西方異土出身の、帝都の者か?」
「いかにも。先の質問に答えよ。この国で、ウルゲリア信仰は禁止だ。司祭騎士ともあれば、とうぜん存じておろう。一般民や農民ならいざ知らず、れっきとした魔術師行政官である代官を信者にして、何を企んでおる? 事と場合によっては、己らの逮捕、追放ではすまされん。両国の戦になるぞ?」
「それは、ヴィヒヴァルン王が決めること。我らはただ……」
「聖魔王ゴルダーイの意思か?」
「…………」
ルテロークの目つきが変わり、左右の騎士たちが動揺した。




