第6章「(ま)おうさま」 4-31 小芝居
タケマ=ミヅカも、ぼんやりと突っ立っているストラを連れて、宿直室へ入る。
残された商会関係者は、しばし愕然と驚愕していたが、やがてボグルの指示により、デイザー達の死体を黙然と片付け始めた。
夜が明けた。
ボグル商会に、街道警備本部リピー支署長ペンケル自ら率いた警備兵が20人ほど現れた。もちろん、ジョングもいる。
「御用改めだ!! 開けろ、開けろ!!」
ジョングが、正面で大声を張り上げ、正面扉を剣の束で叩きまくった。
ボグル商会がメイン通りのど真ん中に面しており、早朝から働いていた宿場の人々、それに旅人たちが何事かと足を止める。
中には、
「……ついに、支署長が動いたぞ」
と、内心ボグル商会を好ましく思っていなかった商人がほくそ笑んだ。ボグルだけが支署長に「付け届け」を拒否し続けており、支署長派の商人達から疎まれているためだ。
「な、何事ですか」
ボグルが現れ、目を白黒させた。
ジョングが、野次馬を気にしながら大仰な身振りを添え、
「貴様ら、先日来、街道筋を騒がせている、『ニセ魔王』を匿っているそうだな!」
「ニセ魔王!?」
ボグルが素っ頓狂な声をあげた。新魔王の噂は、少しづつ街道を走り、このリピーにも少なからず伝わっている。なにせ、すぐ手前のフィナレでは、宿を焼き払った魔獣を事も無げに退治したのだから。
それが、偽物だというのである。
「そのような方々は……!」
「黙れ! それは、我らが見定める。ニセ魔王一行を、おとなしく引き出せ!」
「御無体な!! そのような方々は、おりません!」
「逆らうか!」
そこでジョングを押しのけ、ペンケルが前に出た。
「無体もへったくれもあるか、ボグル。隠し通せると思うなよ。事と次第によっては、貴様も捕縛することになるぞ!」
「そ、そのような無法が通るものですか!」
「何をぬかすか!!」
ペンケル、迫真の演技である。
野次馬がさらに集まり、緊張感も高まった。
そこへ、商会正面入口の奥からドヤドヤと現れたのは、フューヴァを先頭とする「魔王様御一行」だ。さっそくフューヴァ、
「ニセ魔王がなんだって!?」
そこでボグルもわざとらしく驚き、
「ま、魔王様……!!」
などと云う。
ここぞと、ペンケルが前に出た。
「ええい、貴様らがニセ魔王か! 街道を騒がし、王国に仇なすニセ魔王! この街道警備本部リピー支署が、ひっとらえて国王陛下に突き出してくれるぞ!」
「ヘッ、やれるものならやってみなよ!」
「この不届き者が! かかれ、かかれ!」
20人の兵士が槍や剣を振りかざし、正面に群がった。
「魔王様ああ~、この分からずやどもを、あ、少おーし懲らしめておくんなせえ~!」
プランタンタンが、ピョンピョン跳びはねながら首を振ってそう云う。が、
「バカ、もう少し自然に云えよ!」
フューヴァが小声でつっこんだ。
「そんなん、むりでやんす」
プランタンタンがそう云って前歯を出し、眉毛を下げる。
もう、ストラが音も無く兵士達の中に突進し、指一本で剣を受け、槍を受け流し、コロコロと兵士達を地面へ転がした。
うおおっ、と野次馬から歓声や驚声が上がった。
「こ、この……貴様、本当に魔王か!?」
ジョングがそう云って剣を抜きはらい、一瞬、躊躇しつつも、果敢に攻めかかる。
ストラはヒョイヒョイと下がりながら斬撃を避け、パッと転身して足払いをかけるや、ジョングが前転したみいに地面に転がって呻いた。
「な、なんというヤツだ……!」
そこで、リピーがチラチラとフューヴァを見やり、気がつけばボグルも真剣な表情でフューヴァを凝視していた。
フューヴァ少し顔をしかめ、不自然な咳払いに続いて小刻みに目配せしたが、リピーは伝えてあったセリフが飛んでしまったらしく、滝のような大汗をかいてただ固まっている。
(ままよ……!)
フューヴァが前に出た。




