第6章「(ま)おうさま」 4-30 早すぎる
元よりいわゆる「冒険者」のパーティには戦士、魔術師と共に「盗賊」スキル所有者が必須である。反面、それがそのまま「悪徳冒険者」から専門の「盗賊団」になるケースも多々ある。
中でもこの元勇者デイザーは勇者より賊の首領の適性があり、いまや名のある凶賊の頭として街道筋を荒して回ってもう10年になる。
その間、二度ほど王都で「お勤め」をした。
ヴィヒヴァルンでも、その筋では名うての盗賊団と云えた。
やることと云えば殺して奪って女は犯すという、まさに凶賊の名に相応しい仕事ぶりである。
魔術がある世界で、このような犯罪捜査も魔術でどうとでもなろうとも思えるが、これがまた不思議なもので、犯罪捜査に魔術を使うという発想も無ければ、そんな都合のいい魔術も無い。また、どの魔術師もそんな魔術を編み出そうという気も無い。せいぜい、次に襲われそうな場所を予言するとか、占うとか、侵入者防止や宝物警護のため一時的な警報魔術の罠を仕掛けるとか、そんな程度だ。
だがそんな警報魔術は、盗賊団にもいる魔術師が破る。元より冒険者などというのは、ダンジョンで隠された財宝を奪うのが仕事なのだから、むしろ本職であった。
「今日は、女なぞ襲ってる暇はねえぞ、いつ魔王がすっ飛んでくるか、知れたもんじゃねえ。さっさと皆殺して、金庫を破壊してとにかく現金と権利書だけ頂いてトンズラだ、いいな!!」
「ヘイ!!」
デイザーの命令に、一同がうなずき、宿場に侵入した。
云うまでも無いが、その前からすべてストラの広域三次元探査にひっかかっている。
漆黒の中を、三人の魔術師共同で闇を見通す魔術を全員にかけ、昼間のように駆け抜ける。ボグル商会の本部に到着し、裏口に展開した。商人に化けた手下により既に下見は済んでおり、また昨年から下働きで仲間が一人、もぐりこんで内情を探っている。こういう大店では魔術師を雇い、鍵の魔法で金庫室等の戸締りを行うが、それも確認済みだ。凶賊のくせに、異様に前準備が細かい。またその下準備の細かさが、仕事の成功率につながっている。
「よし、開けろ」
デイザーに云われ、魔術師が裏口を難なく開けた。
下っ端がドアを押さえ、デイザーを先頭に、まるで特殊部隊の侵入めいて、流れるように総勢27人が雪崩れこむ。
中では、下見の情報通りに、三手に分かれた。
デイザー達が、まっすぐ一階のボグルの執務室へ向かう。執務室の奥に、金庫室がある。
勇者時代からの仲間で元戦士の副団長に率いられた第二部隊は、二階で寝ているボグル達一家の殺害のため、階段を走った。
もう一人、同じく勇者時代からの仲間の筆頭魔術師に率いられた第三部隊が、三階や屋根裏に住みこんでいる使用人達の殺害に向かう。
金や権利書を奪い、商会本部要員を皆殺しにする作戦だ。
だが……。
既に、ストラの球電が数十もオーブめいて建物内部に浮遊している。
それらが一斉に動き、壁や床も素通りして盗賊たちに突き刺さった。
「ゲブッ…!!」
「ギャァ!!」
「グゥう……!!」
感電及びプラズマ高熱により急所が一瞬にして熱変性……すなわち煮えて、盗賊団27人が即死する。
それは、デイザーも例外ではなかった。
「終わりました」
一階のボグルの執務室でストラが云い放ち、隠れていた商会の人々と、フューヴァがランタンに明かりを入れる。プランタンタンとタケマ=ミヅカは闇を見通せるので、そのまま部屋を出た。
通路や階段に累々と横たわる盗賊団をおっかなびっくり見やり、ボグルを含めて商会の人間たちが唾を飲んだ。
退治するにしても、早すぎる。
一瞬と云うレベルではない。
戦闘すら行われなかった。
ストラが無言で立っているだけで、盗賊団が勝手に死んだようにしか思えなかった。
「これ……これ……は……ま、まほ、魔法……魔法です……か……!?」
「よくわか」
「もちろん、魔王様の超絶強力な魔法でやんす!!」
暗闇に薄翠の眼を光らせ、プランタンタンが断言した。
「魔法……!!」
ボグルの表情が、恐怖に彩られる。右手にランタンを持ち、左手で口元を覆った。
「旦那さん、こいつら、朝までにどこか庭の隅にでも積んでおいてください。そして明るくなったら、ちょいと小芝居につきあってください」
フューヴァがそう云い、大欠伸をしながら、仮眠するためにプランタンタンと共に商会の宿直室に入った。




