第6章「(ま)おうさま」 4-29 ペンケルの決断
「勝手なこと云ってるのはペンケルだろが! いいから手前も兵を出して、魔王を足止めしとけと伝えろ!」
「そんな……!」
「とっとと行きやあがれ!!」
ジョングは幹部連につまみ出され、暗闇の中を転がるように宿場へ逃げ帰った。
官舎で休んでいたペンケルは夜中に叩き起こされて不機嫌を極めたが、半泣きで報告するジョングに腰が抜けんばかりに驚き、
「デデデっ、デイザーのやつめがア……!!」
奥歯を折れんばかりにかみしめ、ランタンの薄明りの中、ブルブルと震えた。
「どうしましょう……!」
「どうしましょうもこうしましょうもあるか……!!」
ペンケルの妻が心配のあまり、報告を受けている小部屋まで見に来た。
それに気づき、
「おまえは休んでいなさい……!」
「ですが……」
「心配ない。心配は……」
云いつつ、妻が下がると頭を掻きむしり、机に突っ伏した。
「支署長……!」
「デイザーと心中するつもりはないぞ」
「は、はい!」
「だが、魔王にデイザーとの関係を追及されたら、どうする……お前も同罪だぞ!」
「えっ! そ、そんな……!」
「当たり前だろ……!!」
「シラを切りましょう! ひたすらシラを切って、やり過ごすしかないですよ!」
「デイザーが口を割ったら?」
「……では、デイザーに勝ってもらうしか……」
「勝てるとは思えん。噂だけでも、凄腕の勇者を何人も撃退しているそうだ……」
「ではもう、最初から魔王様に降伏しましょう……素直にお裁きを!」
「デイザーを裏切ってか? 万が一、魔王がデイザーを取り逃がしたら、間違いなく報復で殺される……!」
「じゃあ、どうしたらいいんですか!」
「こっちが聞きたいわ!!」
そのまま黙りこみ、やがていい年をした二人が、おいおいと泣き始めた。
そうして朝方、泣きはらした目で達した結論は、
・罪を認めて、魔王に全面降伏する。
・ただし、デイザー団襲撃が一日早まったことを伝え、罪を少しでも軽くしてもらう。
・もしデイザーがうまくやって逃げた場合に、絶対に身の安全を保障してもらう。
「都合が良すぎるかな……」
ペンケルがそう心配したが、
「な、なに、デイザーめが復讐しに来たら、魔王に脅されてやったと云いましょう」
「それこそ、都合がいい話だ、私なら信じない」
ペンケルが苦笑し、乾いた笑いを浮かべた。
「もう、魔王様に賭けるしかない……」
ジョングを従えたペンケルは朝からホテル・ボグルを訪れ、ストラに面会を求めた。
そうして全てを話し終え、深く片膝をついて忠誠を誓った。
「いいよ」
いつも通り腕を組んで壁を見つめていたストラが、振り返りもせずにそう云った。
「ほ、本当でございますか!」
「うん」
ペンケルとジョングが見合い、肩の荷を下ろす。
そこで、フューヴァがパンと手を打ち、
「アンタ達、分かってるねえ。そら、賭けるんならストラさ……じゃなくって魔王様だぜ! アタシ達は、これまでずっと魔王様に賭け続けて、そして全部勝ってきたんだ!!」
「は、はあ……」
「そんなカオすんなって! そんな盗賊どもなんざ、魔王様にかかっちゃ、小指一本でも勝てるってもんさ!」
「そ、それならいいんですけど……」
「よしよし、そうと決まったらよ、ちょいと、小芝居につき合ってもらおうかな……」
「?」
不安げに顔を曇らせ、再びペンケルとジョングが見合った。
夜になった。
昼は行き交う旅人の喧騒で賑わい、宵の内は疲れを癒す酒宴で賑わっている宿場も、深夜ともなれば別世界のように静まり返る。みな、旅に備えて早く休むからだ。
その闇の中を、30人近い黒づくめの覆面集団が音もなく走り抜けた。
デイザー盗賊団である。




