第6章「(ま)おうさま」 4-28 デイザー
「あ、貴女……何者なんですか……!! 見たところ、帝都の方のようですが……!」
「ま……帝都の方よ……」
タケマ=ミヅカがそう、うすら笑いを浮かべ、また黙りこんだ。
「……と、いうわけですよ、旦那さん。どうです? ここはひとつ、魔王様に全て、お任せしてみては……? 特に損をすることは無いと思いますが……ね」
フューヴァが、悪魔のような笑みで、ボグルに向き直った。
ボグルは、再び中央で彫像のように座っているストラを見やった。そしてややしばらくストラを凝視していたが、やおら席から立ちあがると、急いでテーブルを回りこみ、ストラの傍らに片膝をついて平伏した。
「ま……魔王様!! どうか、どうか御救い下さい!! 私どもと、この宿場を、巨悪より御護り下され!!」
フューヴァとタケマ=ミヅカがニヤッと笑って見つめ合い、プランタンタンは不思議なものを観るような目つきで、鼻をピスピスと鳴らした。
と、椅子に座ったままボグルを向いたストラが無表情で、その髪の薄い頭に手を置いた。ボグルが身をすくめ、一気に全身に汗をかいた。
「いいでしょう」
無感情な調子で、ストラがそう云った。
「ハ……ハハァアァーーーーーーーッッッ!!!!」
ボグルが再び、深く頭を下げて平伏する。
その夜……。
既に宿場近郊の農家の離れを(強引に)借りきり、27人からなる大規模盗賊団の根城としていたデイザーの所へ、ペンケル配下で繋ぎ役の小隊長……名を、ジョングという……が、訪れていた。
離れはあくまで本拠地なので、27人全員がいるわけではなく、デイザーを含めて幹部数人しかいない。他は、既に宿場内の安宿や、他の農家などに泊まりこんで、決行の日を待っている。
何人も人を介し、尾行等が無いようにして、ジョングが離れに案内される。
「なんだ、もう明後日には決行だぞ……!」
重戦士あがりの、大柄で禿頭に傷だらけの顔をしたデイザーが、ワイン瓶をラッパ飲みにしながら、不機嫌にジョングを迎えた。
「支署長からの指示です……!」
「ペンケルから?」
流石に、幹部連が眼を合わせる。
「なにがあった?」
「まっ……魔王が、宿に現れて……」
「まおう!?」
さしものデイザーも、声をあげた。
「フィーデ山の……って、フィーデ山の魔王は死んだんだったな。ってえことは、ウワサの、新魔王か……!」
「そうです!」
「既に、何人も勇者どもを食っているそうですぜ!」
「火竜を、一撃で倒したっていう話も……!」
幹部も、声に緊張が走っている。
「その魔王がどうした、なにしに来やがった!?」
「魔術で、団長達がボグル商会を襲撃することを予言しやがったんですよ」
「なぁにぃい!?」
そう云ったまま、デイザーも数人の幹部たちも固まってしまった。仕方なく、ジョングが、
「で、支署長が、今回の襲撃は中止にしろと……!」
「なっ……」
デイザーが一瞬、息を飲み、
「バ、バカこの!! どれだけ、準備にカネと時間がかかってると思ってやがるんだ! ペンケルが補償金を払うのか!? 誰の依頼だと思ってやがる! 云うだけだと思って、あのヤロウ……!」
たちまち禿頭を真っ赤にし、怒りをぶちまける。
ここで、デイザーが慎重に慎重を期す本格の盗賊だったら、また話は違っていた。が、所詮は目先の利益にとらわれる、自称勇者あがりの凶賊だ。
「クソが……!! 今更中止になんかできるかッてんだ……!! 延期するったって、一日、二日が限度だ……! 魔王が宿場に居座ったら、たまったもんじゃねえッ……!」
そこでデイザーが歯を食いしばりながらやや考え、
「いっそ……明日、襲うか……!」
「そ、そうですぜ、団長! 明後日じゃなく、明日にしちまいやしょう!」
「魔王のウラをかくんだ!」
「いまから、全員に知らせを走らせますぜ!」
「よし決まった!」
みなが熱り立つ中、ジョングだけが愕然としていたが、
「ちょ、ちょ……ちょっと待ってくれ! なにを勝手に……!!」