第6章「(ま)おうさま」 4-26 ボグル
「で、タケミズの旦那、三枚っちゅうことは……」
「ああ、己ら従者三人で持っているがよい。無くすなよ。それから、これを使う時は、こういう口上をせよ」
タケマ=ミヅカが細かく使用する場面と口上を教え、
「そんな、芝居がかったことをやるんでやんすか」
プランタンタンが眉をひそめた。そういうのは、苦手だ。しかし、フューヴァが明るい顔で、
「おい、アタシにまかせとけよ!」
プランタンタンの肩を叩く。元から、そういうハッタリ芝居が好きなのだ。
「よしよし、フューヴァよ、時が来たならば、おぬしは喧伝大臣をやれ」
「え、大臣ですか? ヘッヘヘ……アタシが? うへッ!」
満更でもなく、フューヴァは笑いが止まらなかった。
「それはそうと、これの三枚目を持つペートリューさんでやんすが……旦那、どうしやす?」
「ペートリューは、捕らわれていた納屋状建築物より、自力で脱出した模様」
「エッ、自力で!?」
「うん」
「アイツが!?」
フューヴァも驚いて、目を丸くした。
プランタンタンも同様だ。
「へへえ~~いったいぜんたい、どうしちまったんでやんしょう」
「エタノ……酒類禁断症状により、自己強制補充を試みたっぽい」
二人は、いっぺんに納得した。
「酒が切れるとやる気出すのかよ、アイツ」
フューヴァがそう云って舌を打つが、
「で、ストラさん、ヤツは無事なんですね!?」
「今のところ……」
ストラが余裕なので、二人もさして心配しない。ストラとしては、常時広域探査範囲内であるし、座標も固定しているので、次元窓展開により、いつでも瞬時に救出できる。
「では、ペートリューはしばし放っておいて……ボグル商会へ行こうか」
タケマ=ミヅカもそう云い、さっそく近くの商会本部へ向かった。
「……魔王が来た? ハア!?」
執務室で帳簿に目を通していた商会当主のガナード・ボグルは、当たり前だが、このクソ忙しいのにアホに構っている暇はないという態度をとり、
「追い返せ」
と、短く命令した。
「し、しかし……」
大番頭に相当する総務支配人が、そこでボグルに耳打ちし、
「当商会を、近々、大規模な盗賊団が襲撃するというのです……!」
「バカな……証拠はあるのか」
「ありません」
「話にならん」
「し、しかし……魔王様ですよ……」
「魔王だろうが勇者だろうが、エセ情報でカネをむしり取ろうとする輩は、これまでにも大勢いただろう! いちいち相手にするな!」
「ですが……!」
総務支配人、そこでまた声をひそめて、
「盗賊団と、ペンケルめが、裏で繋がっているというのです……!!」
それには、さすがのボグルも帳簿から顔を上げる。
もちろん、心当たりが多数、あるからだ。
「どうやってそれを」
「魔王様の、恐るべき探知の魔法だそうで」
「う、うう……」
聞いたことも無い魔法だ。が、これまで現れた数々の自称勇者とは根本から異なる得体の知れなさが、逆に好奇心を誘った。
「よ、よし……会うだけ会ってみよう。応接室に、お通ししろ」
そして急ぎ応接用の衣服に着替え、ボグルが応接室へ向かう。
「お待たせいたしました……」
入ると、応接テーブルの中央にストラ、その両脇にフューヴァとプランタンタン、そして、隅にタケマ=ミヅカが座っている。
「私めが、当商会の当主、ボグルでございます」
フューヴァが立ち上がり、自己紹介したのち、
「こちらが、かのフィーデ山の火の魔王レミンハウエルを倒し、魔王位を正式に引き継がれた、イジゲン魔王ストラ様です。いま、ヴィヒヴァルン国王様へ目通りのため、王都へ向かっていますが、街道筋で色々と揉め事が……もちろん、魔王様は無視して進んでもよかったのですが、これも何かの縁ですし……」
「い、いやはや……! さっそく、金の無心ですかな?」




