第6章「(ま)おうさま」 4-25 ペンケル支署長
「いま、フィーデ山の魔王を倒したっていうヤツがですね……」
「なんだと……!」
火山が噴火し、魔王が倒されたことは報告を受けていたペンケル、机に両手をついて席を立った。
その様子を見て、隊長、
「え……まさか、本物なんです……か……?」
「ど、どんなやつだった?」
「え、ええ……あの、見たことも無い人種で……ぼんやりとしたヤツでした。女です、たぶん……。スレたチンピラみたいな女と、若いエルフを従者に」
「間違いない!」
「ほんとですか!?」
「報告にあった……国王へ目通りするため街道を登っているというヤツに違いない! 既に、魔王を倒そうとする勇者どもを何人も撃退し、フィナレ宿では、宿を焼き払った三頭もの魔獣を苦も無く退治したそうだ!!」
「ええ……!?」
「で……何をしに来たんだ? まさか、挨拶ではあるまい」
「そ……そうでした」
隊長が失礼します、と云ってペンケルへ近づき、耳打ち。
「なに……!! 商会襲撃のことを……!?」
「はい……如何します」
「うう、む……」
ペンケルが、苦い顔をする。
というのも、ストラによる空間記憶探査で近距離過去情報を得ている通り、デイザー団の首領である元勇者デイザーは、冒険者時代よりこのペンケルと懇意で、「やりすぎないこと」と「他の賊情報があれば教えること」さらに「多少の鼻薬」を条件に、街道警備本部リピー支署がデイザー団の街道筋商家襲撃を見逃しているからである。
すなわち、デイザー団とリピー支署は、裏で繋がっている。
グルだ。
しかも、ボグル商会襲撃は、このペンケルのほうからデイザーに持ち掛けていた。
でなくば、支署長の御膝下であるこのリピー宿で、大規模襲撃など万が一にも起こさせない。
それをやらせる理由というのは、ボグル商会排斥にほかならぬ。
なぜならば、ボグル商会だけが、長年ペンケルに対する賄賂を拒否、若しくは過剰に少ない額の「寄付」しか行わないからだ。他の商家の手前、もうボグル商会を見逃せなくなっていた。
が、流石に無実の罪で逮捕し、商会を取りつぶすわけにもゆかず、浅知恵を絞りに絞って考えた末に得たアイデアというのが、デイザー団に襲わせて、商会中枢を皆殺しにし、奪った金品は団が七、ペンケルが三で分ける……というものだった。
ペンケルの取り分が少ないようにも見えるが、表向きだけでも大規模捜査を行うことになるため、デイザー団はしばらく街道筋で「仕事」ができなくなる。その補償金を兼ねていた。
(ま……魔王め……デイザーのボグル襲撃を魔術で探知だと……!? ま、まさか、まさか私とデイザーの関係までも……!!)
ペンケルが、全身に汗をかき始めた。
「ど、どうしますか」
隊長が声をひそめた。
つまり、この隊長はデイザーとペンケルの関係を知っている「身内」ということになる……。
「中止させるほかは無いだろう……相手は魔王だぞ……!」
「ですよね」
「今すぐ、デイザーに繋げ。緊急事態だ」
「分かりました」
隊長が一礼して下がる。
そう。この隊長は、デイザーと支署長の「繋ぎ役」なのだ。
ストラ達がホテル・ボグルに戻ると、タケマ=ミヅカが先に帰ってきていた。
「ホレ、鍛冶屋と彫金屋でうまく作ってもらったぞ」
差し出された三枚の銀メダルには、表にストラの描いた拙いグルグル巻の上に「ツ」のような点々のある古代紋様めいたマークが掘りこまれ、裏側には誰も読めない文字で何か彫ってあった。
「なんて書いてるんですか?」
「魔王の共通文字で、称号が掘ってあるのよ」
フューヴァの問いに、タケマ=ミヅカがニヤニヤしながら答える。
「へえ……」
フューヴァがメダルを何度も裏返して、表裏を見つめた。
そこには、我々の使う「漢字」の篆刻で、「異次元魔王」と彫ってある……。
ストラが目ざとくそれを探査し、タケマ=ミヅカを見つめた。
タケマ=ミヅカも、不敵な笑みで、ストラを見つめ返す。




