第6章「(ま)おうさま」 4-24 スジを通しに来た
「情報提供者とは、お前たちか?」
「ホントは支署長につないでほしいんだけど、まあアンタでいいや」
不敵な笑みで、腰に手を当てたフューヴァが嘯いた。
「なにを!?」
「大規模な盗賊団が、ボグル商会ってとこを、近々襲うぜ」
「…………」
兵士が、針のように眼を細く光らせ、フューヴァを見据えた。
「どこで、その情報を仕入れた?」
「それは、こんな場所じゃあな」
「分かった、入れ」
三人は建物の奥の、応接室のような、取り調べ室のような小部屋に通された。簡素な椅子が用意され、フューヴァが足と腕を組んで、天井を見上げるように顔を上げ、眼だけを前に向けてふんぞり返って座り、後ろにプランタンタンとストラが並んで普通に座った。
兵士は隊長格が一人と、あと三人の一般兵が後ろに立っている。
「で? どこでそんな情報を? ガセで小遣いを稼ぐような内容じゃあないぞ? ハッタリだった場合、どうなるか分かって来ているんだろうな?」
隊長が、これも威厳と殺意に満ちた目でフューヴァを睨みながら云う。
「あったりめえだろ? こちらの、魔王ストラ様の探知の魔法よ」
フューヴァが、ストラを眼で指し、それからまた兵士達をふんぞり返りながら見つめる。
「タンチの魔法? 魔王!? ……ま、魔王だと!?」
流石に隊長も眉をひそめ、ストラを凝視する。
「フィーデ山の火の魔王レミンハウエルを倒し、正式に魔王位を引き継がれた、イジゲン魔王ストラ様だよ! とっくのとうに、街道筋に噂は広がっているもんと思ってたけど、まだ聞いてないのか?」
「自称勇者やエセ英雄は山ほど見てきたが、自称魔王は聞いたことがないぜ!」
隊長がそう云い、兵士達が乾いた笑い声を放ったが、それこそハッタリで笑っているのがフューヴァには分かったし、腹も立たぬ。むしろ、想定通りの反応だ。
「まあ、なんでもいいや。こっちは、ちゃんと伝えたからな。後で吠え面かいてもしらねえし……」
フューヴァは肩をすくめて鼻息まじりにそう云い、そして再び据わった眼を隊長に向け、
「魔王様が盗賊団を壊滅させても、文句云うなよ」
「なにぃ……!」
「そらそうだろ。本来なら表彰ものだし、アンタ達のメンツなんか、こっちは知らねえからな」
「む……!」
隊長が息を飲んだ。
「それによ、それとは別に、人を探してほしいんだ。こっちの仲間が一人、その盗賊団に誘拐されたんだよ」
「誘拐だと?」
「そうさ、街道の安全保障は、アンタ達の仕事だろ?」
「だ、だが、魔王というほどなら……」
「自分らで探せってか? そうしていいんなら、こっちは勝手にそうするぜ。魔王様が、わざわざスジを通しに来てんのが分かんねえのかよ」
「………」
兵士達は唖然とし、隊長が奥歯をかんだ。
「じゃあな」
フューヴァが席を立ったが、兵士達は止めなかった。フューヴァは少し間をおいてそれを確認し、
「じゃ、ストラさん……じゃなかった、魔王様、戻りましょう。好きにしていいそうです」
「うん」
ぼんやりと壁を見ていたストラも席を立ち、最後にプランタンタンが椅子から降り立った。
三人が支署を出て行ってから、隊長が急いで支署長室に駆けこんだ。
「なんだ」
書類に目を通していたペンケル支署長が、不機嫌そうに口を開いた。46歳で、政治家タイプの、金にうるさく神経の細い男だった。
「い、いま、魔王を名乗るものが……」
「魔王!?」
ペンケルが目を上げる。少し白い物の混じった黒い口ひげが、ゆがんでいた。
「魔王って、どういうことだ」




