第6章「(ま)おうさま」 4-22 渦巻きに星
フューヴァが、眉を寄せてつぶやいた。
「渦巻に星」
「え?」
「……」
フューヴァがプランタンタンを見たが、プランタンタンは首を横に振った。次にタケマ=ミヅカを見て、タケマ=ミヅカが、
「よし! これがストラの魔王紋よ! えー……と、う、渦巻に、星? メダルにすると小さくて見づらいゆえ、この渦巻だけ使うこととしよう」
「メダルにするんでやんすか?」
「持ち運べるようにな」
「持ち運んで、どうするんで?」
「こういう風に、有象無象に見せるのだ」
タケマ=ミヅカ、また懐からレミンハウエルのメダルを出し、水戸黄門の印籠がごとく握ったまま前に突き出した。
「見せて、どうするんで?」
「あとで教える」
面倒くさそうに眉をひとめ、タケマ=ミヅカはメダルを懐へ入れた。
「タケミズさんは、どうしてフィーデ山の魔王のメダルを持ってるんで?」
「たまたま、もらったのだ」
「へえ! タケミズさんは、フィーデ山の魔王に会ったことがあるんで!」
「会ったからもらったのだ」
「倒そうとは、思わなかったんで?」
「……」
いささか辟易し、タケマ=ミヅカはプランタンタンを無視して、ストラの描いたフルトス紙を引っ掴むや、
「では、身共はこれをメダルに刻印してくる。ストラよ、お主たちは一足先に、警備支署へ向かい、話をしてくるがいい。フューヴァ、うまくやるのだぞ」
「はい、まかせてくださいよ!」
「よしよし……」
タケマ=ミヅカがホテルを出て、雑踏に消えた。
「じゃ、アタシたちも行きましょう! ペートリューのやつ、生きてるとは思いますけど、生きてるといいですけどね」
「うん」
三人も、ホテルを出て街道警備本部リピー支署へ向かう。
「…………」
ペートリューが目を覚ますと、真っ暗だった。
しかも、両手足を縄で縛られてる。
まったく、意味も状況も理解できなかった。
だが、こういう状況に動じないのが、ペートリューの能力と云っても良い。
(酒……私のお酒、どこ……)
その一心で、転がりながら周囲を確認する。
どうも、物置のような狭い小屋のようだった。
だが、農機具のようなものが乱雑にあるだけで、ホコリとカビの臭いしかしない。
(チクショウ!! どこのだれだか知らないけど、私のお酒を……!!)
歯を食いしばり、なんとか立ち上がると、壁際を少しずつ移動して、扉に到達する。隙間から光が差しこんでおり、昼間のようだ。どれだけ気絶していたのかは分からないが、酒が切れているのは分かった。何の酒でもいいから今すぐ飲まないと、どうなるか自分でも予想がつかなかった。
隙間からこっそり外を覗くと、なんと、見張りと思わしき若い男が立っていた。
しかも、交代のようだ。誰かやってきた。
「おい、時間だぞ」
声からして、不貞腐れきっている。
それも当然。この二人は、ペートリューを誘拐したデイザー団の下っ端の二人組だった。
誘拐したは良いが、数日後にボグル商会を襲うという段に、当たり前だが「それどころではない」というわけだ。しかし、だからと云って逃がすわけにもゆかないし、団の幹部は殺してしまうのも躊躇した。
「そんなスゲえ勇者の仲間なら、何かに使えるだろう……」
と、いうわけで、ボグル商会襲撃が終わるまで閉じこめておくことになり、誘拐した二人が責任をもって見張ることになったのだ。
ここで、ペートリューがとっとと始末されていたら、どうなったか分からない。
また幹部達の、この余計な欲 が、団の運命を決めたと云ってよい。
「しっかし、変なのを拾ったばっかりに、でけえおつとめの前に、こんなところで見張りとは、よ」
「手前が、連れ帰ろうなんて云うからだぞ」
「そうだけど、よ……」
「飲まねえとやってられんぜ」
そう云って、一人が肩下げ鞄というか、頭陀袋より出した安ワインを瓶ごと傾ける。
【おしらせ】
すみません、明日より所用で1~2週間ほど更新を停止します(˘ω˘)
よろしくお願いします。




