第6章「(ま)おうさま」 4-21 魔王紋
「……おい、行くぞ、二人とも」
タケマ=ミヅカに云われ、二人は我に帰ると、はぐれぬように続く。
商会から少し離れたところに、「ホテル・ボグル」があった。
「ホテル・ボグル?」
「関連のホテルだよ」
ストラがそう云って、中に入る。
「はあ……」
プランタンタンとフューヴァがタケマ=ミヅカを見たが、タケマ=ミヅカも肩をすくめて続いて入ったので、その後に続いた。
「いらっしゃいまし」
ロビーや従業員からして、それまで泊まってきたホテルとは異なる、いわゆる豪華ホテルだった。以前ならとても泊まれたものではないが、とにかくいまは金がある。手持ち金はペートリューごと奪われたが、ストラの次元格納庫から既に数百トンプ相当の金貨銀貨を出している。
余裕で上階の部屋をとることができた。
二人ずつ部屋に入り、取り急ぎ片方の部屋に集まってミーティングを行った。
「……で、ストラの旦那、ここのホテルがどうかいたしやしたか? ペートリューさんは、どうするんで?」
そこからのストラの発言に、久しぶりにプランタンタンとフューヴァは仰天した。
「ペートリューを誘拐した盗賊団が、三日後に隣のボグル商会の本部を襲い、従業員を皆殺しにして金品を奪う予定」
「……エッッッ!!」
「さらに、盗賊団の頭領は元勇者であり、勇者時代のツテにより、街道警備本部リピー支署長のペンケルなる人物と裏でつながっており、これまでも何回かの襲撃を見逃してもらっています。さらに、ボグル商会はこのペンケル支署長に賄賂を渡さないので、支署長はこのデイザー盗賊団の襲撃を機会に、ボグル商会をリピー宿から排除しようとしています」
「……!?!?!?」
プランタンタンとフューヴァは驚愕に凍りついたが、タケマ=ミヅカは一人で腕を組み、ニヤニヤと笑っていた。
「……で、どうするのだ?」
「まずは、何も知らないふりをして、街道警備本部リピー支署に盗賊団の情報を与え、ペートリューの捜索を依頼しようかと」
「フフ……妥当なところよ。ではストラよ、支署に行くのなら、そろそろ『魔王紋』を考えておくか」
「魔王紋」
「いかにも」
「……」
ストラが、無表情のまま黙りこむ。代わりにプランタンタンが、
「なんでやんすか、それ」
と、タケマ=ミヅカに訪ねつつフューヴァを見やったが、当然、フューヴァとて知る由も無い。
「も、紋章みたいなものですか?」
「そういうことよ」
フューヴァの問いにうなずきながらそう答え、タケマ=ミヅカ、
「魔王は、必ず魔王紋を持つ。ただし、紋章というより古代紋ゆえ、もっと簡易なものだ。童の落書きのような、古代の遺跡にあるような、な。ちなみに、これがレミンハウエルの魔王紋だ」
タケマ=ミヅカは、懐から掌に収まるほどの薄い銀のメダルを出した。そこに、△の真ん中に棒線を縦に描き、底辺から少し飛び出ている、まるで我々のオデンの先っぽか矢印のような単純なマークが鋳造されていた。
「……え、これが、魔王レミンハウエルの紋章なんですか?」
「いかにも。フィーデ山を表しておる。……らしい」
「へええ」
フューヴァが目を丸くした。まさに、子供の落書きだ。
「こんなもんがねえ……」
「じゃあ、ストラの旦那の紋章も、こんな単純なヤツがいいんですか?」
「そうなるな」
「じゃあ、ストラさん、どんな紋章にしますか?」
さっそくフューヴァがそう云ってストラを見やると、ストラはやおら右手で宙に渦巻を描き出した。
「??」
「何か、書くものを」
タケマ=ミヅカが促し、プランタンタンが部屋に備え付けのフルトス紙を発見する。
「こんな、雑用にフルトス紙を用意してるなんざあ、さっすが、高級宿でやんす」
ストラに渡すと、羽ペン(の、ようなもの)にインクをつけ、テーブルの上で描いたそれは、まさに右に二回半ほど巻いた簡易な渦巻き模様と、その上に我々の「ツ」のような三つのチョンチョンが着いたものだった。さらに、その右横に星のマーク……五芒星が描かれている。
「……な、なんですか、これ……」




