第6章「(ま)おうさま」 4-20 リピー宿のボグル商会
「いいな、それ……。なんにせよ、とっ捕まえてデイザー様に差し出したら、褒美をもらえるぜ、きっと」
「だが、待て。おい、よく見ろ、ありゃあ、魔術師だ……! ボロイが、魔術師のローブを着てやがるぜ」
「あほ、あんな魔術師がいるか。偽魔術師だぜ」
「それもそうだな……ハッタリだ」
「よし……」
「やるか……」
二人はそうと決めるや、獲物を狙う肉食獣のように音もなく身を低くして藪から出た。じりじりと距離を詰め……頃合いで一気にダッシュ。戦いに夢中になっているペートリューに、後ろから襲いかかる。自衛兼作業用の大型ナイフも持っていたが、それは抜かずに、一人が両手を合わせ振りかぶって、ペートリューの後頭部を殴りつけた。
「ストッ!!」
叫びかけていたペートリューが、そのままバッタリと前に倒れ伏した。
「へっ……やっぱり、ハッタリだ。見ろよ、こいつ」
踏みつぶされたカエルみたいに草むらにうつぶせになったペートリューを見下ろし、一人がせせら笑った。もう一人は、驚いた馬をなだめながら、
「よしよし……どうどう! おい、こっちも、金目のものがありそうだぜ」
「こいつを縛って、荷駄に乗せろ」
「おうよ」
野外用の雑用ロープを出し、二人がかりで気絶するペートリューの両手両足を縛って、馬の架台に載せた。手綱を引き、急いで、その場を離れたのだった。
そのころには、もうストラは魔獣達を倒し、戦闘を終了している。
王都へ向けて急いで街道を進み、同時に誘拐されたペートリューを追跡していたストラ達だったが、街道を進んでも進んでも、それらしい人物は見かけなかった。また、王都方面から来る旅人たちに話を聞いても、ペートリューらしき女を連れた人物の目撃例は無かった。
「こいつは、街道筋を通ってねえんじゃねえですかい?」
ここまで来ると、プランタンタンの予想も真実味を帯びた。なにせ、もう半日も行けば次の宿場であるリピー宿に着いてしまう。
「とにかく、宿場に入ろう」
タケマ=ミヅカの言葉に従い、四人はそのままリピー宿へ入った。
その人の多さと、宿場町の大きさに、プランタンタンとフューヴァが驚いた。
ちょっとした、市のような大きさである。
「ここは、ヴィヒヴァルンでも最大の宿場街よ。三つの街道が交差しておるからな」
タケマ=ミヅカが、人通りを眺めながら、云った。
「へええ……」
「それに、王国中央部の治安を統括している、王国街道警備本部のリピー支署がある。後にそこを訪れ、情報を得よう」
「分かりました」
フューヴァはそう云うが、プランタンタンは、
(旦那のタンチ魔法の方が、詳しい気がしやすが……旦那はとっくに、ペートリューさんの居場所を掴んでいるんじゃあ……?)
そう思ってストラを見やった。が、ストラは相変わらずボンヤリと周囲を見やっているだけだった。
(いやいや、騙されねえでやんす……旦那がああしているときは、既にタンチ魔法が飛んでいるんでやんす)
そう思うと、もう安心してくる。
「まあ、それはそれといたしやんして……タケミズさん、宿はどこがいいと思いやすか? まずは、足固めで、宿を決めちまいやんしょう」
「そうだな……ま、何処でも良いが……」
タケマ=ミヅカ、通りを歩きながら周囲のホテル街を見やっていたが、ふとストラが、
「あっちに、面白そうなところがあるよ」
「ほう……」
タケマ=ミヅカが、にやッと笑った。
「では、そこにしよう。ストラよ、どこの宿だ?」
ストラが人込みを避けながら先導して歩きだし、三人が続く。しばらく歩いていると、かなり大きな商会の前を通った。武器防具、旅の装備から食料、酒、その他の日用品、なんでもある。なんと、五階建てだ。
「ひええ……これがぜんぶ店でやんすか?」
「そ、そうみてえだな」
プランタンタンとフューヴァが田舎者丸出しで、その商会を見上げた。まるで、王宮であった。
「ボグル商会……」
旅人、宿場の人、冒険者……あらゆる人々が飲まれるように、商会に吸いこまれて行く様を見つめ、フューヴァが半ば茫然と立ちすくんだ。




