第6章「(ま)おうさま」 4-19 そういうもの
フューヴァの啖呵に、みな固まりつき、
「ハハアーーッッ!!」
いっせいに片膝をついて平伏した。
(キ……)
それを見やって、フューヴァは、
(キモチいいい~~~~!!!!)
バシバシと背筋に電気が走り、久々の絶頂感に酔った。
「おぬし、喧伝の才があるではないか」
タケマ=ミヅカが、満足げにフューヴァへ云った。
「口から出まかせで、生きてきましたからね……!」
フューヴァが、もう消失した歓楽都市ギュムンデでの日々を思い出し、苦笑する。
既に一行は準備を整え、宿場の者たちが見送る中、急ぎ街道を進んでいる。
「よいか、これからは、カネ以外、寄進は一切受け取るな。また受け取ったからとて、云うことを聴く必要はない。好きなようにやれ。そのうち、それでも寄進するものと、遠ざかるものが出るが、好きにさせておけ」
「そういうもんなんですか」
「そういうものだ」
「それにしても、なんで宿の連中は、あんなにストラの旦那に会いたがっていたんでやんすか? まさか、本当に御利益があるとでも思ってたんで?」
「御利益と云えば、御利益よ。魔王様御用達のホテルなど、それだけで格が数倍は上がる。みな、宿場を救った魔王様と会った、魔王様に声をかけられた、魔王様に目をかけられた、魔王様と握手した……それだけでカネになるのを知っているのだ。なにせ、自称勇者などは掃いて捨てるほどいるが、魔王様は、そうはおらぬからな」
「へええ……てえしたもんでやんすねえ」
「感心しておる場合か、プランタンタンよ。以後、その規模は大きくなる一方と心得よ。いまはまだ宿場を云々……という程度だが、そのうち、ヴィヒヴァルンの異次元魔王となる。帝国内の、他の魔王を打ち倒すごとに、その名は大きくなる。みな、早く魔王とかかわりを持ちたがって、有象無象が蟻の如く群がってくる。おぬしらに、捌ききれるかな?」
楽しそうに嘯くタケマ=ミヅカを、プランタンタンとフューヴァが見やり、それから互いに目を合わせた。
そして、無言だった。
(望むところだぜ……そんなもん。ストラさんを、神にも等しい存在にしてやらあ)
フューヴァは、決意を新たにした。
ところで、その、ペートリューだが……。
「呑みつぶれて寝てる」というフューヴァの予想は、あながち外れでもなかった。
ほんの数刻前、馬を預けられ、ストラ達が行ってしまってから、手綱を前の馬の架台に結び、馬を数珠つなぎにして、先頭の馬を引きながら休み休み荒野を進んでいた。
そしてストラが宿場の上空で魔獣の駆除を始めたころ、
「うおー、スゴイ!」
等と云い、水筒の白ワインをゴクゴク飲りだした。
その様子を、荒野の藪から見ていたものが、いた。
「なんだ……あの女は」
フィナレ宿の下見に出ていた、デイザー盗賊団の一味だった。
下見と云っても、実際に襲撃する大店に下働き等で潜りこみ、内情を探り一味を引きこむレベルの高い仕事ではなく、逃走経路の確認や周辺の土地勘を探る下っ端がよく担当するものだ。もっとも、下っ端の仕事とはいえ、重要な任務に違いは無い。
「お、おい、なんだ、ありゃあ!」
下見は若い二人組で、ペートリューを見つけると同時に、宿場街上空で始まったストラと魔獣の戦いに気づいた。
「す……すげえ! なんだ、アイツ! あんなバケモノと、たった一人で、対等に……!」
「名のある勇者か!?」
二人は、遠目ながらストラの戦いに釘付けとなった。
だがそれ以上に、
「イケェエーーーーッ、ストラさん!! ヤレヤレーーッ、そこだーーーッッ!! ギャハーーーーッッッ!!!!」
ペートリューが荒野の真ん中で騒ぎ出し、水みたいに水筒の酒をガブ飲みし始めた。ほとんど一気飲みで一本空けると、踊りみたいに手足を振りかざして応援しながら、器用に馬の酒樽からワインを補充し、さらに興奮して飲み続ける。
「……? ……??」
二人はストラも気になるが、ペートリューにも注意を向けた。
「あ、あの凄腕勇者の仲間か?」
「馬が三頭……女が一人……仲間が、先に宿場へ向かったんじゃねえか?」
「あの荷馬を見ろ……もしかして、金を預かってるんじゃねえか?」
「待て、人質に取って、あの凄腕勇者から身代金をぶん獲るってのは、どうだ?」




