第6章「(ま)おうさま」 4-17 帰依
そのストラが、スタスタと二人のところへ歩いた。人々が波のように分かれ、ストラを通す。
「旦那、お疲れ様でやんした」
「うん」
「こいつらが、魔獣使いだそうですよ」
「うん」
出迎えたプランタンタンとフューヴァへぶっきらぼうに答えつつ、ストラは何の感情も無いような眼で、幾重にも槍を突きつけられて地面に這っている二人を見据えた。
(……こ、これが魔王か……!? な、なんたる……何の感情も無い……ひ、人ではないような……!)
キレットは、ストラの鋼色の眼を見つめ、恐怖に震えた。
「まっ、魔王様! こんなヤツラ、死刑にしてくださいまし!!」
「そうだ、そうだ!」
「この子らの母親が、く、く、食い殺されたんです!!」
「魔王様ああ!!」
「お願いでございます!!」
「どうぞ、我らの復讐を!!」
大衆が、憤って口々にまくしたてる。
(さて……どうする? ストラよ……魔王は、ただの為政者ではないぞ……。時には、理不尽や不条理をつきつけねばならん……)
タケマ=ミヅカが腕を組み、気配を消してそう思っていると、ストラ、やおら、その手を音もなくカマキリの構えのように持ち上げ、キレットに人差し指を向けた。
一瞬にして、人々が黙りこんだ。
「私に帰依し、私のために命を捧げて働くのなら、今は許しましょう」
云ってから、ストラは自分がどういうプログラムに従って、帰依などという「宗教用語」を口走ったのか、不思議に思った。もしかしたら、人間だった時の感情と記憶か?
「ハ……」
キレットは全身から汗が噴き出て、ガタガタと震えだした。
「ハハアアアーーッ!! ぜっ、ぜぜ、全身全霊全魔力を捧げ、まま、魔王様に御仕え申し上げますううーーッ!!」
キレットがそう叫び、土下座して地面に額を擦りつけたので、あわててネルベェーンもそれに続いた。
宿場の人々が凍りついていたので、すかさずフューヴァが前に出た。
「てめえら!! 魔王様の御決定に、不服のあるものはいるか!? いたら、命を懸けて申し出やがれ!!」
「……!!」
「文句が無いなら、魔王様に態度で示せ!」
人々も、一斉に片膝をついて、ストラに平伏する。
「フフ、あれでよい。文句なしだ」
「そうですか?」
タケマ=ミヅカがうなずきながら不敵な笑みで云い、フューヴァが満更でもなくニヤニヤする。
四人は、焼け残った仮宿に入り、次の宿場を目指す準備をしていた。
「魔王は、ただの英雄ではない。恐怖の対象でもある。一方的に決定を下すだけで良いのだ。有象無象の云うことを、いちいち聞く必要はない。それは、側近として魔王を利用する己らの仕事になると心得よ」
「え? アタシたちのですか?」
「いまにわかる……」
「はあ……」
で、配下になった魔獣使いであるが。
そのまま、タケマ=ミヅカの命令で遥か東北へ向かった。鷲頭有翼獣を殺さずに残しておいたので、移動も早いだろう。
「北海の魔王を探し出すのに、とある魔獣が必要よ。奴らに使えるかどうかは、わからんが……ま、いないよりマシ、というところだな」
「北海の魔王でやんすか?」
席に着き、ブドウの果汁水を飲んでいたプランタンタンがタケマ=ミヅカに目をやり、高い声を発した。
「カッコイイ名前でやんすね」
「いずれ、ストラが倒す。帝国最辺境……絶海の孤島に隠れておる……はずだ」
「へええ……」
そこでフューヴァが思い出したように、
「そういや、ペートリューのやつは、どこに行ったんだ?」
あっ、とプランタンタンも素っ頓狂な声を発した。
「もう、とっくに宿場に来ててもいいころでやんす!」
「あのアホ、まさかあのまま呑みつぶれて寝てるんじゃねえだろうな!」




