第6章「(ま)おうさま」 4-11 3匹の怪物と魔獣使い
「エッ!?」
いきなりストラがそう云ったので、三人が息をつまらせた。
「ゲ、ゲドルが三頭いやがるんでやんすか?」
「いや、ハラゲドルなる空想上生物ドラゴン類似魔力子依存生命体は一体です。他に、他形状の同様魔力子依存生命体を二体確認。当該宿場を襲ったのは、ハラゲドルと認定。他は、人類類似頭部保有猫科生物状有翼四足歩行生命体、もう一体は猛禽類類似頭部保有ドラゴン類似生命体です。私の認識する単語を使用すれば、この三体はドラゴン、スフィンクス、そしてセマルグルであると認識します」
久々にストラの独り言を聴いて、三人が無言で眼を合わせた。
ちなみに「セマルグル」とは、鷲の頭部に翼、そして獣の身体を有するという、グリフォンに似ているスラブ神話・ペルシャ神話の神にして魔物である。
「なお、この三頭は二人の飼育兼調教者と推測される人物に率いられています」
「…………」
三人が、また見合った。
「……どういうことでやんす?」
「魔獣使いですか?」
ペートリューの言葉に、ストラは答えなかった。ストラも知らないからだ。
「なんでやんす? そいつは……」
「文字通り、魔術やその他の秘術をもって、魔獣を操る人のことです……」
「えっ、つうことは、火竜は、ナニモンかが操って、宿場を襲ったって事か!? なんのために!?」
フューヴァが驚愕して叫ぶ。そう云われてもペートリューにも分からず、
「さ、さあ……」
白ワインの水筒を傾けるだけだった。
その会話を黙って聴いていたタケマ=ミヅカ、
(なんと、魔獣遣い喃……この数日で、どこからそんな連中を調達してきたのやら……相変わらず顔の広いやつよ……)
感心して、内心、ほくそ笑んだ。
「なんにせよ、此度は街中ではなく、荒野よ。見物人がおらぬゆえ、ストラも思う存分、暴れられよう。せいぜい、街道にいる者どもに見えるよう……」
「いや、移動してる」
「なに?」
ストラに云われ、タケマ=ミヅカも、密かに魔力の流れを追った。確かに、魔獣達が荒野と林の中を移動していた。
「まさか、アタシ達のことを気づきやがったのか!?」
「いや……たまたまであろう」
「どこに行こうってんで? 逃げてるんでやんすか?」
「いや……」
タケマ=ミヅカが、視線を荒野の地平線へ向け、
「フィナレの宿場を襲うようだ」
云っている傍から、真紅の物体が木々の向こうから現れ、巨大な翼をはためかせ、飾り羽や陽光を照らす真っ赤な鱗もしなやかに空中へ舞った。
「あっ」
と、プランタンタン達が声を出した。
火竜だ。
その美しく強靭な姿を愛でる権力者もいるが、襲われる大衆にすれば、ただの怪物である。
まして、人を喰うのだ。
「魔力依存生命体は魔力を生命活動のエネルギー源にしているはずなのに、どうして当該世界人類を捕食する必要があるの?」
ボソリとストラがタケマ=ミヅカに尋ねたが、
「い、いや、さあ」
流石のタケマ=ミヅカも、その質問には口を曲げて首を傾げた。
「とにかく、後を追いやんしょう!」
手綱を引きながら、プランタンタンが小走りに駆けた。馬に乗ったほうが速いのだろうが、いま荷馬に蔵は無く、縄と専用の器具で荷物を括りつけているだけで、プランタンタン達に裸馬に乗る技術はない。フューヴァとペートリューも続くが、少しも行かぬうちに、ペートリューがへばりだす。
「ま……待って……!」
「ペートリューさん、急がねえと、ストラの旦那が倒す前にまた逃げられちめえやんす!」
そう云われても、無理なものは無理だ。
「さ……先に行ってて……!!」
ここで、ストラとタケマ=ミヅカも立ち止まった。
「いかがする?」
「こちらも、飛翔するというのは?」




