第6章「(ま)おうさま」 4-10 いじげん魔王
「…………」
タケマ=ミヅカが、茫然としているペートリューを肘でつついた。
「え?」
顎で宿場の人々を指すタケマ=ミヅカを見やり、ペートリュー、水筒を一気飲みすると、咳払いし、前に出る。
「ホン、オホン、ン、ンン! あ、あー。え、ええと、あの、ここ、こちらは、まお、魔王、ま、魔王ストラ様ですぞ!!」
「異次元魔王」
「いじげん魔王、ストラ様ですぞ!!」
宿場の人々、当たり前だが眼を丸くする。
「……まおう!?」
「いじげまおう!?」
「いじげん魔王」
「いじげん……って、なんですか」
「なんですか?」
ペートリューに問われ、タケマ=ミヅカ、
「この世のものとは思えぬほどの強さ、ということよ」
「あ、あの、フィーデ山の魔王様は……どうなったんで?」
「死にました」
これは、ストラだ。
「しんだ!?」
そこでペートリューが、また水筒を傾けた。が、空だった。仕方なく、大きく息を吸って、
「いじげん魔王ストラ様が、フィーデ山の魔王を倒して、次なる魔王になり、いま、ヴィヒヴァルン国王へ目通りに行くのです!!!!!!」
そこでフューヴァも負けじと前に出て、
「頭が高えぞ、おまえら!! 頼みごとがあるんだったら、それ相応の態度ってもんがあるだろうが!! 魔王様は、無敵だぞ!!」
人々が、雷に打たれたように硬直し、
「……へ、へへぇえははあああーーーッ!」
いっせいに道端に片膝をついてひれ伏したと同時に、
「あのバケモンを倒してくださいよ、魔王様!!」
「お願いです!! コリオの宿は、壊滅です!!」
「再建するにも、あんなのいたんじゃ!!」
「お願いします、お願いします!! 魔王様!!」
「母さんとじいさんの仇をとってください!!」
「おれは、息子を食われたんだ!!」
「うちはカカアが焼け死んで……丸焦げに……ううっう、う……!」
涙ながらの必死の形相に圧倒され、フューヴァとペートリューが固まってしまったので、流石にタケマ=ミヅカが取って代わる。
「まあ、落ち着け、おのれら。異次元魔王様にかかれば、魔物の一匹や二匹など、物の数では無いわ!」
「ほほ、本当ですか!」
「信も信よ……で、その火竜は、どこへ逃げた?」
「は、はい……北の、あの荒地のほうからやって来て……街を襲った後、また荒地の方へ逃げました」
「あのゲドルやろうに、何人も踏み殺されて、食われたんですよ!!」
「このままじゃ、フィナレ宿も危ないです!」
フィナレ宿とは、次の宿場街である。この二つの宿は、それほど遠くない。
「よしよし……魔王様にまかせておけ……!」
「お願いいたしますです!!」
「フィナレ宿にも、人を出しておけ」
「はい、既に……フィナレに逃げたの者も多いです」
「では、北の荒地な……魔王様、ちょっと寄り道だが……参りましょうか」
「うん」
タケマ=ミヅカを先頭に一行は道を外れ、道無き道を進みだした。鍛えられている荷馬は、荒野も難なく踏破する。
しばらく歩いて街道の人々が見えなくなり、
「……二人とも、先程はなかなか良かったぞ。ま、あんな感じよ」
「そうですか?」
フューヴァがまんざらでもなく、顔を緩めた。
ペートリューは、歩きながら馬の背の樽から水筒にワインを詰め替えており、
「器用でやんすねえ」
プランタンタンが感心する。
「しっかし、火竜たあ、スゲエやつが出たもんだなあ。そんなの、本当にいるんだな」
「あと、二体、いる」




