第6章「(ま)おうさま」 4-6 ゴミ掃除という催し
「気づいておろうが、今日のゴミ掃除は、先日より簡単そうだ」
「うん」
「もっとも、おぬしにとっては、先日の連中も今日の連中も大して変わらんだろうが」
「うん」
「まあ、魔王としての名声や実績を上げるためと思って、せいぜいハデにやれ」
「うん」
「一撃で殺すなよ」
「うん」
「おぬしは、宿場の連中をまきこむな」
「うん」
そこでストラ、珍しくタケマ=ミヅカに近づいて、
「ところで……」
「なんだ?」
「王都まで、何回こんな催しを企画しているの?」
「ふ……」
タケマ=ミヅカが苦笑して目を細め、
「まあ、期待しておれ」
そう云うだけで多くを語らなかった。
翌日、我々で云う午前八時ころ、ストラたちが宿を出て、街を横断する街道を人々に交じって歩いていると、
「……?」
どけや、どけどけ、とあからさまに通行人を押しのけ、見た感じは無頼の盗賊団のような屈強な大男が四人と、その後ろに男女の魔術師が二人のパーティが立ちふさがった。大男たちは日焼けし、色黒だったが、四人のうち二人は南部人種の血を引き目鼻立ちがより濃く、焦げ茶色や茶褐色の肌をしている。後ろの女魔術師も、薄い褐色肌に黒髪だった。残りは、茶髪や茶金髪だが、肉体労働者のように小麦色の肌をしている。帝都周辺の、もう何百年も帝国中の人種の入り混じった都会の人間だ。
ただし、帝都の最下層地区の出身で、無頼がそのまま冒険者になって無頼の旅を続けているパターンである。勇者と云っても、凶賊ギリギリの蛮行を行う。荒くれ勇者というか。
その中で、真ん中のひときわ鍛えつくし、初夏の気候に分厚い甲冑を着こんだ焦げ茶色の肌に長い波型の黒髪、黒々と目の大きな重戦士が、
「おい女ああ!! お前が、フィーデ山の魔王をぶっ殺した新しい魔王だな!? この勇者ゴレオンが、ヴィヒヴァルン国王の令により、いまから魔王退治を行う!! バーレル宿の者どもは、目をひんむいてようく見ておけやぁああ!!!!」
「でっけえ声でやんす」
プランタンタンが、驚いて眉をひそめた。
宿場の人々が一斉に散り、かつ遠巻きに見物する。
「タ、タタ、タケマズさん、ここ、こういうときは、どういう口上を!?!?」
きょどりながらも、ペートリューがタケマ=ミヅカに尋ねた。
「そうさ喃……」
云いつつ、スタスタと前に出て、
「おのれら、宿場の人々の迷惑も考えずに魔王退治とは片腹痛い。勇者が聴いて呆れるわえ。下がりおろう!」
「前座はすっこんでろ、チビ。時間の無駄だ」
タケマ=ミヅカを見もせずに、ゴレオンがストラを不遜に睥睨する。タケマ=ミヅカは、ストラを振り返って苦笑して肩をすくめ、
「では、そうさせてもらおうか。身共は、傍観者ゆえな。ささ、魔王様、上手に蹴散らされよ」
ストラに場を譲り、プランタンタン達を誘って下がらせる。
半眼でぼんやりと相手を見つめるストラだけが、街道に突っ立った。
「あんな連中、敵じゃあねえとは思うけど、王都までいちいちこんなのの相手をしなきゃダメなんですか?」
フューヴァがタケマ=ミヅカへ迷惑そうにつぶやいたが、
「それも魔王の仕事と思え」
「でも、1トンプの得にもなりませんよ」
「もはや、目先の金を追う立場でもあるまい。こういった地道なバカ退治が、魔王の名を高め、寄進を呼ぶと心得よ」
「キシン!?!?」
フューヴァが、聴きなれぬ言葉に驚いた。そこでプランタンタンも、
「そういやあ、魔王様ってえのは、どうやって稼ぐんで? 傭兵になってもいいんでやんすか?」
「魔王を雇う豪気なものがおれば、な」
「じゃあ、租税でも集めるんで?」
「税など集めん」
「じゃあ、どうするんで?」




